うちは農道を走るよ

  • #インタビュー

公開 取材・文 ローカル文庫 編集部

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聞き手
ローカル文庫 編集部

僕らは、左官という仕事の名前すら知らない状態で取材に行きました。阿賀野市で明治のころから続く左官の会社だということ、社名にグローバルが入っている事について、経緯を聞いて驚きました。

01 小学校の頃から、五代目だと言われていました

母親から、小学校の頃からずっと「お前で五代目だ」と言われていました。手伝いもしていました。

家には住み込みの弟子が、三人から四人ほどいました。一緒にご飯を食べながら住んでいたので、家族同然で違和感は全くないんです。

私は喫茶店のマスターに憧れたこともありました。学校の先生に話したら、即却下されまして。お前はどうなんだよ、と。そういう時代でした。

高校だけは行かせてもらいました。同級生の中には、中学を卒業してすぐ、うちに寝泊まりして見習いに入った子もいます。

その同級生は朝早くから仕事をしている。自分は高校に行っている。気が引ける、という経験はしましたね。

創業は、明治十年ぐらいだと聞いています。はっきりしたエビデンスはないんですけどね。

02 一人でできる仕事じゃないので、下手すると家族です

代々、守りなさいと言われたものは、今でいう会社の理念みたいなものだと思います。

一人でできる仕事じゃありません。ですから、やっぱり人です。十代から一緒に仕事をして、その人の人生に一緒に関わるようなことになる。つまり、家族ですよね。幼い頃から住み込みの弟子が家にいた事もあるので、余計にそう思います。

会社の名前にグローバルが入っています。理由は、実はあまり深くないんです。

2004年に四つの町が合併して阿賀野市が出来ました。同じ市内に、加藤という左官屋が三、四軒になってしまって。お客様も取引先も、ごちゃごちゃになって分からない。それで社名を変えました。

相談した会社が、夏みかんの皮を剥くような商品を開発して、日本全国から東南アジアまで売っているところです。そこの社長さんに相談して、グローバルになりました。ちなみに、その会社は社名にワールドと入っています。

社名のグローバルは、町の合併で同じ名前の左官屋が増えたことがきっかけで付いた名前だと、社長は話した。

左官工事現場風景.jpg

03 周りに、土も石も砂利もある町で

阿賀野市には山があります。標高千メートル弱で、日本でも有数の硬い石が取れる山です。お墓の墓石になります。

そこから十キロほど行くと、阿賀野川があります。砂利や砂が、建築材料にちょうどいいものが取れる。その中間に、私の町があるんです。

石がある。いい木がある。いい土がある。川へ行くと砂利と砂がある。住宅の資材が、買わなくてもいいくらい周りにあるんです。それを利用して家を作ってきました。

でも、いかに早く安く、という時代に入って、我々左官が必要な住宅が少なくなってきました。ツーバイフォーが主力になり、海外から木材を輸入して、プレカットで組み立てる。家の作り方が大きく変わったんです。

それでも私は、この町の自然の材料で家を作りたい。ここが一番いい場所だと思っています。先人から「ここはいい町なんだぞ」と聞いて育って、自分は恵まれていると。

瓦もそうです。阿賀野市は安田瓦という有名な瓦があるのですが、昔は窯元が二十軒、三十軒ぐらいあったんですが、今は一軒しかありません。使わない瓦や古い瓦で、集落の景観を作る運動を、十何年か前に始めました。屋根に上げていた瓦を、モニュメントに組み上げたりして。

参考にしたのは、愛知県の焼き物で有名な町です。見に行って、いいなと思いました。うちらが住んでいる町の産業が、だんだん捨てられていく。これをなんとか食い止めなくちゃいけない、というのがありました。

学校にかけ合って、子どもたちに物を作らせたいという話もありました。時間もかかるし、学校関係も難しくて。それでも、何回かイベントをやって、地域の人から少しは喜んでもらっています。

社長は、左官業を営む傍らで、生まれ育った地域の産業を絶やさぬよう、地域を盛り上げる活動を継続しています。

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04 うちの職人が、手掛けたところが世界で一位になったよ、と

今は、地元の土を使った壁塗りが主体です。東京や新潟の設計事務所と、個人の住宅や、レストランや、民宿みたいなところで使ってもらっています。

去年、我々が手掛けた、レストランを主体としたフランス発祥の宿泊施設オーベルジュ[Né]という建物が隣の新発田市があります。そこが、今年のつい最近、Architizer A+Awards2026という世界的な建築物のコンペティションがあって、そこの建築と環境部門で世界一位になったんです。さらに、今年の日本空間デザイン大賞のサービス・ホスピタリティー空間部門でも、金賞を受賞しました。これは自慢してもいいな、と思いましたよ。

設計の先生が、もっと土にこだわろうと言ってくれて、うちの職人も含めて、楽しく仕事をさせてもらいました。

世界一位や金賞の話は、職人たちも喜びました。左官をやっていてよかったな、と。その日の朝礼で、そんな話をしました。

我々の塗った壁が評価されたのは、最高に嬉しいことです。若いやつらには、実家に帰って、じいちゃんばあちゃんに報告しろ、と言っています。

自分が引退しても、その建物は残るじゃないですか。

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05 女性で左官になりたいのは、変わってますよね

私は今75です。現場は、体力的にもう難しくなりましたが、やはり、左官が好きなので、沢山の現場へ出向き自分の目で見る事を続けています。

今は文化財の仕事もしています。江戸~明治にかけての古い建物がまだ残っていて、そういう建物は文化財に指定されている事が多いから傷んだら直さなくてはいけない。でも、直せる職人がほぼいないんです。私の年代は、もうほとんど引退しています。

技術を若い人に伝えたくても、ひと昔前の職人は、先輩の仕事を見て技術を盗んで行くのが当たり前だったから、教え方がうまくないんですよ。

東京の左官屋さんで、昔から女性のスタッフを入れて、私らが教わってきたのとは全く違うやり方で育てているところがあります。私は憧れていて、目標にしています。何年か前、そこから教え方を教えてもらって、真似をさせていただき年単位で明確な目標を設定し、それに必要な事を月ごとに教えて行くようにました。

その方法で、高校新卒入社の女性左官職人を育てました。学校の就職担当の先生は、電話で「ちょっと変わってる子なんですよ」と言っていました。

私は言いました。女性で左官になりたいというのは、確かに変わってますよね。でも、私は変わっている方がいいです、と。

条件は、親御さんに一回会わせてください、でした。女性を預かるのは初めての事でいろいろと配慮が必要なのではないか?と思ったからです。

面談当日一緒に来られたおじいちゃんに、必ず五年、六年で一人前にさせますと約束しました。

その約束は、果たせました。今、彼女は立派な左官職人としてお客さんからの引き合いもかなりあります。技能検定も、一級まで取りました。一級を取った時は新潟県内一位の成績で合格してとても嬉しかったです。

うちの孫も二人、会社にいます。一人は現場で、もう一人は事務方です。

女性で左官になりたいというのは、確かに変わってますよね。でも私は、変わっている方がいいです。

現場風景①.JPG

06 高速道路を走るか、農道を走るかで

採用は、当然したいんです。ハローワークさんにもお願いしています。でも、人口が少ないというのもあるだろうし、若い人にはあまりイメージがよくないんだろうなと。

社員は、事務方が三名、現場の職人が十四人ほどです。体が丈夫なら、定年はありません。七十になっても、いくつになってもいいよ、と言っています。七十ぐらいの人もいますし、二十歳ぐらいの子もいます。本当に孫ですよね。

今の家庭は、核家族化が進み、家庭的なものが薄れている中で、せめて会社の中は一家だよ、と。何かの縁で今いるんだから、会社の中で一家になろうと、よく言うんです。

体がきつい仕事は、若いやつが俺がやると率先して行い。年配は、経験や技術を若い人に伝えればいい。そのバランスが、今のところうまくいっているかなと。

お金も、当然大事です。左官でやっても、都会に出なくても、それなりの収入を取れるように、と思っています。

私はよく、たとえ話で、高速道路を走るか、農道を走るか。うちは農道を走るよ、と言うんです。

大学に行って知識を活かせる人は、それでいい。俺たちは、大学に行けないとか、そこまでできないとか、そういう中で。物を作る楽しさで、毎日楽しく仕事ができればいいじゃないか。お客さんが喜んでくれたら、最高じゃないか。農道を走っても、道はつながっているんだから、同じだぞ、と。

何をするにしても、楽しんでやるのが一番です。自分が楽しんでやると、周りも一緒に、そっちの方が楽しいとなる。全体も明るくなりますよね。

自分も、前はこうじゃなかったんです。怒ってばっかりいた人間でした。

インスタグラムは、娘たちが上げているようです。私は自分ではできないので、孫や若い人たちに、もう少し力を入れてもらったほうがいいですね。一緒にやれる仲間が増えたら、最高です。

行く前、僕らは左官という仕事の名前も知りませんでした。行った後、世界的に認められる実力を持つ左官業を営む傍らで、生まれ育った地元の産業を守る為に十何年活動を続けてきた人がいることを知りました。

取材: 島田大輝/ローカル文庫編集部

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