ローカル文庫 代表 島田 大輝

会社じゃなくて、この人だ。

ローカル文庫 代表島田 大輝

公開 取材・文 ローカル文庫 編集部

この記事について

所在地
大阪府
話を聞いた人
ローカル文庫 代表 島田 大輝
公開日
2024.08.14
聞き手
ローカル文庫 編集部

ローカル文庫は、地方で会社を続けている経営者と、そこで働いている人に話を聞いて、一冊ずつ記事にして残すメディアです。取材費も掲載費もいただきません。届ける先は、これから働く場所を選ぶ人たちです。

最初の一冊は、いつもと逆にしました。ふだんは聞く側にいる島田に、そのまま話してもらっています。途中で詰まったところも、うまくまとまっていないところも、直さずに載せました。

地方で働きたい気持ちはあったはずなのに、就活になった瞬間、その選択肢が消えたんですよ。

01. 有名か、給料か。それでしか会社を見ていなかった就活生の話

「地方で働く」その選択肢が、消えた。

まずは、自己紹介からお願いします

島田大輝といいます。ローカル文庫という、地方で働く人の話を一冊ずつ本にして残すメディアをやっています。……と言っても、もともと地方創生に詳しかったわけでも、経済の話ができたわけでもなくて。ふつうに就活してた、ただの学生でした。

宮崎の離島で見ていた、働き方の話

祖父母の家が、宮崎の離島にあるんです。親の出身がそっちで、小さい頃からよく行ってました。海があって、知らない人がふつうに話しかけてくる。仕事のしかたも、都会とは全然違う。地域のあたたかさとか、そこだからこその働き方みたいなものは、たぶん人より近くで見てきたほうだと思います。

だから、地元というか、地方で働くことは、ずっと頭の片隅にありました。東京や大阪で仕事をするようになってから、余計にはっきりしました。時間の流れが違う。働き方が違う。都会だけの生活じゃないほうが、自分には合ってるかもしれない。そういう感覚は、たしかにあったんです。

それなのに、就活になった瞬間に消えた

……あったのに、就活になった瞬間、その選択肢が消えたんですよ。

周りの友人と同じ空気の中にいると、結局、福利厚生と年収と条件でしか見なくなる。有名なところを受ける。僕もそうだったし、友人もたくさんそうでした。

地方で働くというのが、当たり前の選択肢じゃなかったんです。誰が悪いという話でもなくて。ただ、最初から並んでなかった。

——僕も、条件で選んだ会社に入って、あとで条件に殴られた側です。(松本)

02. 「会社じゃなくて、この人だ」と、初めて思った日

会社じゃなくて、この人だ。

地域で会社をやっている人に、実際に会ってみてどうでした?

それが変わったのは、地域に訪問させてもらったときでした。

そこに、地域に根付いた製造業の会社があったんです。昔からずっと続いていて、今も売上はちゃんとある。ただ、後を継ぐ人はいない。それでも、誇りを持って働いてるんですよ。

働いてる人たちも、なんか、幸せそうだったんです。家族で働いてる人がいて。東京が嫌になって地方に来て、ゆっくり働いてますっていう人もいて。土日は、その地域ならではの遊びを楽しんでる。

もちろん、いいことばかりじゃないと思います。給料は、東京で同じ仕事をしている人と比べたら、たぶん低い。それでも、あの人たちは辞めていないんですよね。

お客様のため。そして、創業者の思いをなくしたくない。その二つで動いてる会社でした。それに、ものすごく惹かれたんです。

その社長が、こういうことを言ったんです

お金は、ありがとうの気持ちなんだ。経営者は、そのお金に責任を持っている。

僕らは、この地域の人たちのために、この地域で働いてる。

僕は、この地域が大好きだ。それを、若い子たちにも伝えたい。

この地域と、この会社を、失いたくないんだよ。

そこから、いろんな地域の人に会わせてもらうようになりました。社長だけじゃなくて、そこで働いている人にも。会う人、会う人、まるで違ったんです。景気が悪い年も会社を畳まなかった人。先代から受け継いだ技術を、なんとか次に残そうとしている人。従業員とその家族の生活まで背負って、それでも新しいことに挑戦している人。

うまく言えないんですけど、聞いてるうちに、有名とか給料とか、そういう物差しがどうでもよくなって。この人の下で働きたいな、って初めて思ったんです。会社じゃなくて、この人だ、って。

あとで思い返すと、あれが最初でした。

その出会いのあと、いいと思った会社にふつうに入って、それで終わりでもよかったんです。でも、なんか、もったいなくて。僕一人がいい出会いをして、いい会社に入って救われても、それは僕一人の話で終わっちゃうじゃないですか。

地元の友達に久しぶりに会ったら、休んでいた

地元の友達に、久しぶりに会ったんですよ。そしたら、休んでる子が何人かいて。うつで、って。今の職場がしんどいとか、この先が不安だとか、そういう話でした。

選択肢なんてたくさんあるんだから、もっと楽に考えてほしかった。地方でゆっくり働いたっていいんじゃないの、とも思いました。

でも、その子たちが就活のときに見ていたのも、僕が見ていたのと同じ、条件の並んだ画面だったはずなんです。地方で働くという行がそこに無かったのは、たぶん、その子たちのせいじゃない。

そのとき思ったんです。就職を考えるときに、地域で働くという選択肢が当たり前にあること。それ自体が、たぶん一番大事なんじゃないかって。

このまちで、なぜ続けるのか。ローカル文庫は、その一問を聞きにいくメディアです。話を聞かせてくださる会社を、いつでも探しています。

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03. ローカル文庫が、やっていること・やらないこと

取材費も掲載費も、いただきません。

結局このメディアは、なにをするんですか?

地方の土台を、毎日いちばん長く支えてるのは誰かというと、そのまちで会社を続けてる企業なんですよね。その土台に足りないのが、若い担い手で。僕の地元でも、若者はどんどん減ってます。このままだと、帰る場所も働く場所もなくなる。

一方で、地元に帰りたい、地方で暮らしたいという若者も、ちゃんといるんですよ。お互いに、存在も想いも見えてないだけなんです。

だから、やってることはシンプルです。

若い子たちは、選択肢を知らないだけなんです。だったら、一社でも多く、地方で続けてる会社の社長や、そこで働いてる人の思いを、僕らの言葉に置き換える。見えるようにする。それだけです。

なんでそのまちで続けてきたのか、どんな覚悟で働いてるのか。そういうのって、求人サイトには載らないんですよ。載るのは条件だけで。でも本当は、そこにこそ、その会社にしかない良さがある。それを一冊ずつ形にすれば、「この人の下で働きたい」という、それまで存在しなかった選択肢が手に入る。

地元に、こんな会社があったんだ。こんな人が、いたんだ。

読んだ人にそう思ってもらえたら、それでいいんです。

なぜ、取材する経営者からお金を取らないんですか?

よく驚かれるんですけど、取材する経営者から、お金は一円ももらってません。取材費も、掲載費もゼロです。

お金が動くと、本音が建前になるからで。取材費をもらった瞬間、それって証言じゃなくて売り物になるんですよ。読む人だって、お金をもらって書いた記事だと分かったら、たぶん信じない。信じてもらうために、もらわない。それだけです。

たぶん経営者からすると、逆にちょっと怖いと思うんです。タダより高いものはない、みたいな。だから最初に必ず言います。あなたからはお金を取りません、って。そこがスタートなんですよね、いつも。

——ここは、僕からも足させてください。僕はもともと自分で会社をやっていて、取材商法で百万円持っていかれたことがあります。あれがめちゃくちゃ不愉快だったので、同じことは絶対にやらない、というのが僕の側の理由です。(松本)

書き方で、決めていることはありますか?

取材した人が、書いたものを見て「これは違う」と思ったら、出さないです。本人がOKしない限り、世には出さない。そこは必ず約束してます。

あと、美談にはしません。うまくいかなかったことも、逃げたくなった時期も、本人が話してくれた範囲でそのまま載せる。良いところだけをきれいに並べた瞬間、それって求人票と同じになっちゃうので。

うまく語れないことのなかにも、その人の凄みはちゃんとある。僕らには、地方企業のことを全部解決できる知識も経験もありません。だからせめて、分かったふりをせずに、一社ずつちゃんと話を聞きたいんです。

どの人にも、必ず聞く質問が一個だけあります。「このまちで、なぜ続けるのか」。これだけは、毎回聞きます。

じゃあ、どうやって食べているんですか?

黙っていて、あとから気づかれるのが一番よくないと思ってるんですよ。無料には理由がある。その理由を先に言えないなら、無料でやる資格がないと思ってます。

お金の話は、これで全部です。取材を受けてみようかと思われた方は、こちらからどうぞ。

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04. なぜ続けるのかと聞かれて、島田が言葉に詰まった日

なぜ続けるのか。島田が、詰まった。

じゃあ、島田はなんで続けているんですか?

——この質問は、僕らが取材のたびに社長へ聞いているものです。今日は、島田に向けました。ここで島田が詰まって、しばらく黙りました。(松本)

……ちょっと、詰まっちゃったんですけど。

続けたい、というより。僕が会ったあの人みたいな人に、僕以外の誰かにも出会ってほしいんです。あの感覚を、僕だけのものにしとくのが、もったいない。たぶん、それだけなんですよ。

05. 逃げようとした僕を、置いていかなかった人たちの話

一人が、一冊。戻れる場所がいる。

——ここから先は、後日あらためて聞きました。(松本)

実は一回、逃げようとしたことがあるんですよね

最初は、若い人にもっと地域のことを知ってほしいとか、地域で働くことを選択肢にしてほしいとか、そういう思いで始めたんです。KLP——Key Life Platformという活動で、官民と学生が一緒になって、地域の担い手を育てる取り組みをしています。僕はそこの代表もやっています。

でも、実際に事業を動かしていくと、自分が全然うまくできないことがたくさんあって。人との連携が足りなかったり、判断を後回しにしたり、しんどいことから目をそらしたり。自分ではちゃんと向き合ってるつもりだったんですけど、結果的に、周りに迷惑をかけてました。

正直、もう自分は関わらない方がいいんじゃないかと思ったんです。逃げた方が楽だと思って、それを伝えちゃいました。

それでも、終わりにはならなかった

そんな自分に、それでも向き合ってくれる人たちがいました。

できていないことは、できていないと、はっきり言われました。厳しいことも言われた。でも、そこで終わりにはならなくて。「じゃあ、ここからどうするのか」を、一緒に考えてくれたんです。島田と一緒に仕事がしたい、とも言ってくれました。

自分が逃げそうなときに、関係を切らずに向き合ってくれた。

振り返ると、僕にとってKLPは、ただの仕事でも、ただの事業でもなくなってました。うまくできない自分も、失敗した自分も含めて、それでももう一回やってみようと思える場所になってたんです。居場所だったんだと思います。

だから、戻れる場所がいる

その経験があったから、若い人にも、そういう場所があってほしいと思うようになりました。

一回就職して合わなくてもいい。一回失敗してもいい。途中で逃げてしまうことがあってもいい。そのあとに、また誰かと出会って、違う道を知って、もう一度挑戦できればいい。

人って、正しい選択肢を最初から選べるとは限らないと思うんです。だからこそ、失敗したあとに戻れる場所とか、次の選択肢に出会える場所が要る。

僕にとってKLPがそうだったように、ローカル文庫も、誰かにとって次の一歩を考えられる居場所みたいな存在になれたらいいなと思ってます。

派手なことをやるつもりはありません。一人に会って、一冊を残す。それを地道に増やしていく。地味ですけど、そこだけは崩さないでいこうと思ってます。一人が、一冊。そこは、絶対に。

これを読んだあと、「そういえば、地元にどんな会社があるんだろう」って、ふと思う人が一人でもいたら。たぶん、それでいいんです。

編集後記(松本)

いつも僕らが社長に聞いている質問を、今日は島田に向けました。途中で答えに詰まって、しばらく黙った時間があります。そこは、そのまま載せました。

僕自身も、条件で会社を選んだ側です。名前を知っている会社を受けて、年収と休日で決めて、入ってみたら上司と合わなくて辞めました。そのあとの転職も、正直、条件が良かったからです。条件で選んだ会社は、条件で変わる。それを一回やってから、こう思うようになりました。入る理由も、辞める理由も、結局は人間関係でしかない。そこは求人票に一行も載りません。だから、載せる場所を作っています。

聞く前は、代表なんだからすらすら答えるだろうと思っていました。詰まって黙った時間を聞きながら、答えを持っている人より、まだ探している人の話のほうが信用できるな、と思い直しました。

次のページからは、また僕らが聞く側に戻ります。

このまちで、働く人の物語。次は、あなたのまちの誰かを。

取材・編集

松本隼和|ローカル文庫 編集部

僕も、千葉の田舎の方の出身です。地方で働くという選択肢が、都会にいるとどんどん見えなくなっていく感覚を、自分も知っています。ローカル文庫では、そのまちで会社を続けている人に一人ずつ会いに行き、一冊ずつ残しています。

取材させてください

ローカル文庫が取材するのは、そのまちで会社を続けている経営者と、そこで働いている人です。

まず、お金の話をします。

  • 取材費も掲載費も、一円もいただきません。ここは変えません。

先にこれを言うのは、僕自身が取材商法でお金を取られた側だからです。あとから知る、が一番よくない。無料には理由がある。その理由を先に言えないなら、無料でやる資格がないと思っています。

書き方も、先に決めています。

  • 記事はご本人にOKをいただいてから公開します。「これは違う」と思われたら、出しません。
  • 下書きはメールでお送りします。言い回しの修正も受けます。こちらで勝手に公開することはありません。
  • 美談にはしません。うまくいかなかったことも、話していただいた範囲でそのまま載せます。

そのうえで、取材を受けると、こうなります。

01|条件ではなく、人で選ばれるようになる
求人票に載るのは条件だけです。人柄も、続けてきた理由も載りません。それが読める状態になると、応募してくる人が変わります。条件で比較されているうちは、条件で勝てる会社に負けます。地方の会社が都市部の大手と条件で勝負しても勝てません。勝てる場所は最初から別のところにあって、そこは求人票には書けない。条件で戦うのをやめられる、というのが一番大きい変化だと思っています。

02|想いが言葉になって、会社に残る
なぜこのまちで続けてきたのか。ふだん誰にも聞かれないことを、時間をかけて聞きます。それが読める形になって残ります。できあがった記事は、御社で自由にお使いいただけます。自社サイトに載せるのも、会社案内に使うのも、SNSで流すのも自由です。

03|採用の現場で、そのまま使える
求人媒体に記事のURLを載せる。一次面接の前に候補者へ送る。それだけで、面接が「条件の確認」から始まらなくなります。社内向けにも効きます。社長の考えを社員が文章で読める機会は、意外とありません。

記事は御社にお渡しするほか、提携している10の学生団体を通じて、約500人の学生につながっています。ただ、創刊号の今は、そのうち何人が読みますとまではお約束できません。数を語れるようになるまでは、御社が採用の現場でそのまま使えることのほうを、価値としてお約束します。

取材の流れ

取材は約60〜90分。公開までは約1ヶ月。お写真を1枚いただきます。

「うちなんて、話すことないですよ」から始まる取材が、いちばん多いです。まずは一度、話を聞かせてください。

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