今回お話を伺ったのは、三重県桑名市の株式会社マルキ松田組一級建築士事務所の代表、松田貴仁さん。家業を継いだ経緯、構造設計という仕事の中身、これからの会社のこと、そして若い世代に伝えたいことについて伺いました。
「働き方には、本当にさまざまな形があるということを、ぜひ伝えたいと思います。」
「働くって本当にいろんなやり方があるっていうのは伝えいたいです。」
01 祖父から、後を継ぐと言われて大きくなりました
建設業の家に生まれて
祖父が建設業を始め、父がそれを継ぎました。地方ではよくある形だと思います。構造設計の事務所としての仕事は、私の代から始めたものです。
私は長男ですので、幼い頃から後を継ぐものと言われてきました。そう言っていたのは主に祖父で、父からはあまり言われませんでした。
そういうものだと思って育ちました。
家が建設業でしたので、大学は建築学科に進みました。卒業後は別の会社で経験を積み、その後に家業へ戻ってきました。
付き合いを大事にするように
父から、経営や商売の仕方について特に教わったことはありません。ただ、子どもの頃から人との付き合いを大事にするようにとは言われていました。そうした教育は受けていたのだと思います。
祖父と父の代は建設業を営み、構造設計は松田さんの代から始めたと、社長は話した。
02 エンジニアリングデザイン
構造設計事務所
仕事としては、いわゆる設計事務所にあたります。ただ、建築以外を学んでいる方、たとえば文学部や経済学部の方が設計事務所と聞いて思い浮かべるのは、建物をデザインする姿ではないでしょうか。
エンジニアリングデザイン
私がしているのは、そうした仕事ではありません。エンジニアとしての設計、エンジニアリングデザインと言えばよいでしょうか。
安心・安全な建物を
具体的には構造設計です。建物の骨組みを設計する仕事で、あまり耳にしたことがないかもしれません。
普段建物を使っているときはもちろん、大きな地震や台風が来たときにも建物が壊れないよう、柱や梁の大きさ、部材の組み方等を使用性、コスト、施工性を考慮して総合的に決めていきます。
エンジニアというと、今はシステムエンジニアを思い浮かべる方が多いと思います。建築の世界にも、建物の安全を支えるエンジニアがいます。私たちは、そうした設計事務所です。
仕事は、地震や台風で建物が壊れないよう骨組みを設計する構造設計だと、社長は話した。

03 構造設計を通してさまざま人と関わること
描いたものが建物になる/パズルを解くような面白さ
建築に携わる人がよく口にすることですが、自分が図面に描いたものが建物として出来上がる。それはやはり一つのやりがいだと思います。
もちろん構造設計そのものにも面白さがあります。建物には、床を梁が支え、梁を柱が支え、柱を基礎が支えるという、力を受け渡していく骨組みの序列があります。
意匠や設備、法規、コストなど、さまざまな条件が絡み合い、最初は情報が散らかった状態です。それを整理して骨組みの序列を組み立てていくと、建物全体がすっきりと整う。数学の問題やパズルを解いているような感覚があります。
人の輪が広がっていく
そしてもう一つは、いろいろな人と関われることです。現場の方、施主の社長さん、デザインを担当する設計者の方。そうした方々のご紹介で、まったく別の分野の方とお会いすることもあります。人の輪が広がっていくのは、建築に限らず、仕事をしていて面白いところだと思います。構造設計を通して、さまざまな人や世界に触れること。もしかすると、それがいちばんの面白さかもしれません。
手がけた建物が何かのメディアに取り上げられたり、依頼主から感謝の言葉をいただいたりすることも、励みになっています。
04 大切にしたいのは会社の規模よりも自由
自由に生活できる環境を
会社を大きくしたい、売上をどんどん伸ばしたいと考えているわけではありません。
私も含め、ここで働く人には家庭があり、仕事があり、それ以外の時間もあります。
「精神的な面でも経済的な面でも、皆が自由に暮らせる環境を整えたいと思っています。」
社員は7人で、そのうち3人は私と父、母です。私は今42歳ですが、ほかのスタッフもほぼ同世代で、設計補助などを担当しています。
人づてで採用するなら
新しい仲間を迎えたい気持ちはあります。
事務所のある桑名は名古屋に近く、名古屋の大学や三重大学には建築学科があります。そうした学生さんに来ていただけたらと思っています。今も三重大学建築学科の学生が一人、アルバイトに来ています。
就職サイトには登録していません。構造設計は専門性の高い仕事ですので、大学とのつながりや人づてで採用するほうがよいと考えています。
来てほしい人について言えば、構造設計というと構造計算をし、図面を描く仕事というイメージが強いですが、結局はお客様あっての仕事です。どの仕事にも通じることですが、まずコミュニケーションが取れること。そして技術は年々進歩していきますので、それを自ら学び、少しずつでも力を伸ばしていける方がよいと思います。
SNSは個人では使っていますが、会社としては発信していません。会社として取り組んでもよいかもしれませんね。
採用は就職サイトに登録せず、大学とのつながりや人づてで行っていると、社長は話した。
「コミュニケーションが取れて、自ら学び続けられる方に来ていただきたいと思います。」

05 いろんな働き方があると、伝えたいです
学生の時は想像が及ばなかった
働き方にはいろいろな形があります。私自身、学生の頃はなかなか想像が及びませんでした。ですから、そのことはぜひ伝えたいと思います。
今は自分で事務所を営んでいますが、会社に勤めていたこともあります。その頃と比べると、精神的にはずっと自由だと感じています。
もちろん、自分の責任は自分で負わなければなりません。それでも、会社の人事に左右されることはありませんし、引き受けかねる仕事はお断りするという選択肢もあります。実際に断るのは簡単ではありませんが、その選択肢が自分の手の中にある。自分の裁量で仕事を進められる働き方ができていると思います。これは会社の代表だからではなく、ここで働く人にもそのように感じてもらえればと考えています。
フラットな雰囲気です
社員7人のうち3人は家族ですが、ほかのスタッフも含めて、フラットな雰囲気でやっています。堅苦しい職場ではありませんので、働きやすいと思います。
今の事務所は平成元年に建てたものです。かつては社員が20名を超える時期もあり、建物もそれだけの人数を想定して建てました。今は人数も変わりましたので、現在の働き方に合わせて昨年改装し、環境もよくなりました。
また、父が農業も営んでいて、米を作って出荷しています。野菜もかなり作っていて、こちらは売り物ではなく、社員に配っています。なかなかないことですので、これも一つの特徴かもしれません。ひとつの経済の形ではないかとも感じています。
仕事の面では、組織が小さいぶん、伸びようと思えば自由がききます。自分で勉強し、講習会に参加し、いろいろな人に会う。会社員として働く場合でも、そうした自由さはこの事務所のよいところだと思います。
取材では、松田さんが会社を継いだ経緯、耐震設計という仕事、そして働き方はいろいろあるという話を聞きました。
取材: 大浦唯翔/ローカル文庫編集部
設計事務所と聞いて、私はデザインをする仕事を思い浮かべていました。松田さんが「私がやってるのはそれではなくて」と話し、地震や台風のときに建物が壊れないように柱の大きさなどを考える仕事だと聞いて、建物の見えないところを支える仕事があることを初めて意識しました。
心に残ったのは、会社を大きくしたいわけではなく、ここで働く人が家庭も仕事もその他も含めて自由に生活できる環境を整えたい、という言葉です。お父さんが作った野菜を会社の人たちにあげている話も、その言葉とつながっているように感じました。
一方で、「自分で自分の責任は取らないといけない」という言葉もありました。自由な働き方と、その責任の重さがどう釣り合うのかは、まだ自分の中で飲み込めていません。これから働き方を考えるときに、もう一度思い出したい言葉です。

