今回お話を聞いたのは、三重県松阪市飯高町の株式会社中井組の代表、中井敬さん。父が始めた会社の二代目です。取材では、建設業に入るつもりはなかった学生時代から、若い人がいる会社の雰囲気、これからの話まで聞きました。
「やっぱりね、どこまで行っても人と人なんだよね。」
01 学校の先生になりたかったんですよ
国語系の先生になりたかった
建設業に行きたいという思いは、学生の頃は全然なかったですね。
最初は、中学校の先生になりたかったんです。 三重で教員を目指すなら、教員になりやすい大学がある。そう聞いて、伊勢の大学に入りました。
でも、先生になるだけのために学校へ行く、というのは違うなと思ったんです。 先生になるなら、いろんな勉強をして、いろんな経験をしてからの方がいい。三重県にいるより、ほかで学んだ方がいいなと思って。
それで辞めて、浪人をしました。 とにかくまずは東京に行きたかった。東京だと、いろんな人が集まってるんで。
でも一年、勉強はほとんどせずに、ほとんど遊んでました。 国語系の先生になりたかったんで、行きたい大学もあったんですけど、受かることができずに。結局、関西大学へ行って、4年間通いました。
教育実習で、向いてないなと
関西大学のときに、教育実習で地元の中学校へ戻ってきたんです。 そこで、向いてないなというのがあって。
子どもというか、生徒は、いつまで経っても先生のことを覚えてますよね。 でも、教えた卒業生が何十人、何百人といる中で、先生がみんなのことを覚えているかというと、なかなか難しい。覚えているとしたら、ちょっと変わった子か、やんちゃな子か。印象の強い子です。
おとなしい子のことはまず覚えてないな、と思ったんです。
卒業したその子が、先生に会ったときに、「先生、私のことを覚えてないな」と思うことがあるんじゃないか。そうすると、その子がショックを受けるというかね。
いい加減なことでは先生にはなられへんな
それで、先生を断念しました。
先生を目指して大学を移ったが、教育実習で向いていないと感じて断念したと、中井さんは話した。

02 建設業に携わりたいとかではなかったんです
たまたま入った会社でした
大学卒業後は、普通に大阪の方で就職しました。 大阪で何年か働いたんですけど、特に自分がやりたいと思える仕事でもなくて。たまたま入った会社だったんで。
そうしているうちに、周りでも、親の後を継いだりっていうのがありましてね。 それで、そろそろ一回田舎に帰ろうかな、と。
会社は親父が一代目で、私が二代目になります。
簡単に言うと、田舎に戻ってきたんです。 建設業に携わりたいとか、この仕事をして田舎をどうこう、というのではなかったんです。
ここ10年、15年ぐらいの間です
戻ってきた当初は、親の仕事を手伝う。ガムシャラではないんですけど、右も左も分からずにやってきて。
私、今年で61歳になるんですけど、ここ10年、15年ぐらいの間ですかね。 この田舎のためにっていうか、人のために頑張っていこうかなと思い出したのは。
戻ってきた当初は右も左も分からなかったが、「田舎のため、人のため」と思い出したのはここ10年、15年ほどだと、中井さんは話した。

03 地元の建設業者がやってるんで
ものを作り出す、それと災害のとき
建設業の魅力は、一つはものを作り出すことです。 道路を作ったり、ダムを作ったり。
あと、もう一つ大事なのが、災害のときなんです。 最近は、ゲリラ豪雨のような激しい雨が降ることも多くなっています。そういう緊急時には、日本全国各地域の建設業が活躍するんです。地域にとって、なくてはならない存在なんですよね。
うちは、車で20分も走れば県境の山の中です。多少の雪も降ります。 雪が降ったときの除雪作業や、台風や大雨の後に、道路に石が落ちてきたり、木が倒れたりしたときの撤去作業もあります。
そういうこともすべて、地元の田舎の建設業者がやっています。
田舎から出ていく子の方がほとんど
ただ、暑いときもあれば、雨の中で作業するときもある。そういうところで働き続けられる若い子は、なかなか少ないですよね。難しいです。
田舎からは、出ていく子がほとんどです。 今は逆に、定年退職した人も働いてくれていて、70歳前後でもみんな元気に頑張ってくれています。
昔は、勉強が苦手だったり、ちょっと不良っぽかったりしたら、「土建屋にでも行けよ」という時代だったんですが、今は、いろんな職業があるんで、その中から建設業を選んでもらうのは非常に難しい。人がいないとできない仕事なんですけどね。
Uターンで戻ってくる子も、なかなかいないんです。 飯高町は合併して松阪市になったけれど、市街地までは車で1時間ぐらいかかります。松阪市の方へ出ていって、仕事や結婚を機にそのまま住むようになり、そこから1時間かけて通ってくる、という形ですかね。
Uターンや Iターンが多いのは、林業関係みたいです。建設業よりも、自然の中で働けるというイメージがいいんですかね。
採用に向けては、地元の高校生に働きかけたり、就職説明会をしたりしています。中途採用も常に募集してるんですけど、なかなか難しいですね。高校生は、ほとんど製造業の方に行きます。建設業でも、場所によっては外国人労働者を入れているところもあるので、そろそろそうしたことも考えていかなあかんなと思ってます。

04 居心地がいいんで、よそに行かない
若い社員を育て、長く働ける会社に
ただ、うちはまだ恵まれた方なんです。 田舎の割には若い子がいて、一番若いのが19歳で、あとは20代が2人。
その子たちをなんとか伸ばしていきたい。ずっと頑張っていけるような会社にしていかなあかんなと思って、今頑張ってますね。
若い子がいると、その友達や知り合いにもつながって、そういう関係で人が来てくれたらいいなと思ってます。今、若い子が来てくれているのは、知り合いや縁故関係が多いですね。
来てくれたり、長く残ってくれたりしている子たちは、仕事の楽しさや、やりがいも感じてくれていると思います。それに加えて、うちは居心地の良さもあるみたいです。
「居心地がいいんで、よそに行かない。」
そんなことをよく言ってくれるみたいですね。
もちろん、居心地がいいだけじゃなくて、仕事そのものにもやりがいを感じてもらえるような会社にしていきたいと思っています。
従業員の声を聞き、働きやすい環境をつくる
会社全体の雰囲気は、堅苦しくないですね。
私と従業員との距離も近くて、みんな気軽に話しかけてくれます。社長と従業員という立場ではありますけど、あまり壁を感じずに、楽しくやっているところはあると思います。
みんなで春ごろに焼肉をしたり、忘年会をしたりするんです。ビンゴゲームもして、景品も2回分、3回分ぐらい用意して。最近は会社のそういう付き合いを嫌がる人もいると思うんですけど、うちはみんな、そういう場をすごく楽しんでくれているんですよね。私も、なんでこんなに楽しく面白い雰囲気になるんかな、と思うくらい。
近所の人からも、うちは仲のいい雰囲気の会社だと言うてくれてるみたいです。それが、働いてくれている人の安心感や、「ここでよかったな」という気持ちにもつながっているんやと思います。
従業員だけじゃなくて、その家族も大切にしたいという思いもあって、クリスマスにはチキンを、土用の丑の日には鰻をプレゼントしたりしてます。普段、頑張ってくれている従業員はもちろん、その家族にも喜んでもらえたらいいなと思ってますね。
働く環境についても、できるだけいい状態を整えたいと思っています。仕事で使う機器も、常に新しいものを取り入れるようにしていて、従業員から「こういうものが欲しい」「こうした方が仕事がしやすい」という意見があれば、聞くようにしています。機器の導入だけじゃなく、会社の制度などについても、現場で働く人の声を取り入れていきたいですね。
一番は、当然、会社なんで利益を上げること。それは大事なんですけど、それだけじゃなくて、働いている人が「ここで働いてよかったな」「仕事が楽しい」と思えるところがないとね。
従業員の意見を聞きながら、働く環境を少しずつ良くしていく。そういう積み重ねが、居心地の良さにもつながって、長く働きたいと思ってもらえる会社につながるんじゃないか、と中井さんは話した。

05 考えるよりまず動けですね
何でも面白がってやってくれる人
一緒に働きたいのは、とにかく何でも面白がってやってくれる人です。
仕事なんで、嫌なこともあるし、しんどいこともある。生きていると、思い通りにならないことが多いですからね。だからこそ、うまくいかないときでも、ダメなときこそ面白がって取り組める。そういう前向きな人がいいですね。
給料はもちろん2倍、3倍もあればいいですけど、1万円でも2万円でも、多いに越したことはないです。ただ、それ以上に大事なのは、居心地の良さというかね。学校でも、勉強は面白くなくても、あいつがおるから行こう、と思うことあるじゃないですか。会社もそれと同じで、一緒に働く人や職場の雰囲気って、大事やと思うんです。
うちは法面工事をやっています。道路沿いの山側にある、コンクリートの四角い枠の吹き付けなどですね。今は自社版というものを作りかけていて、三重県はもちろん、奈良や福井といった近隣の県にも仕事を広げていきたいと思ってます。
そのためにも人材がいる。女性も含めて、現場で一緒に頑張ってくれる人を、もう1人、2人増やしたいと思ってます。いろいろな人が加わることで、職場の雰囲気にもいい変化が生まれると思うし、みんなが楽しく働ける会社にしていきたいですね。
まずやってみて、ダメだったら次に行く
若い人には、「とにかく何でもやってみる」ということを伝えたいですね。 今は情報が溢れすぎてるんで、これにしようか、あれにしようかと悩んでいるよりも、まずはやってみる。ダメだったら、次に行けばいいんです。
「考えるより、まず動け」ですね。
年を取ってから、あれをしておけばよかった、と思うこともあるみたいですから。 できるうちに、やれることはやっておく。
田舎を盛り上げるのも大事なんですけど、若い人たちがここで、生きがいとまでは言いませんが、楽しんで生活できる場を作っていきたいですね。
誰かのためにっていうよりも、まずは自分のために頑張ってみる。その頑張りが、たまたま周りの人たちと分かち合えて、一緒に面白くやっていける。 人と人なんでね。お互いの思いがたまたま合致することもある。そうなったときの力って、すごく大きいと思うんです。
何をやったらいいかわからない、どうしようかと迷っている。そんな人は、とりあえず中井組に行ってみようかな、というきっかけでもいいと思います。そこで何かを見つけられれば、それは自分にとってプラスになるし、もし合わなかったら、また次に進めばいい。
何かにつながる一歩になれば、というのはありますね。
取材では、先生を目指していた学生時代、家業に戻った経緯、災害や除雪を担う地元の建設業の仕事、社員が「居心地がいい」と話す会社の雰囲気について聞きました。
取材: 島田大輝/ローカル文庫編集部

