株式会社ビーディホーム 代表 濱口 和也

家づくりから暮らしの提案へ。伊勢で「つながり」をデザインするビーディホーム

代表濱口 和也

公開 取材・文 ローカル文庫 編集部

この記事について

会社
株式会社ビーディホーム
所在地
三重県
話を聞いた人
代表 濱口 和也
公開日
2026.10.18
聞き手
ローカル文庫 編集部

物心ついたときから、住宅の現場で育った

三重県伊勢市を拠点とする株式会社ビーディホームは、注文住宅を中心に、カフェやインテリアのショップ、キャンプ場、ホテルまでを手がける会社だ。代表の濱口和也さんの原点は、幼い頃に過ごした住宅の現場にある。

父は家業として職人の仕事をしていた。母も同じように現場に立ち、子どもは親の仕事のそばで過ごすのが当たり前だったという。

「もう本当に物心ついた頃から住宅建築の現場に。親は仕事して、子どもは子守りされながら、みたいな。小学生ぐらいの頃になったら、いろいろ手伝えることが増えてきて、なんかもう本当にお休みごとに現場で育つ、みたいな」

家業を継ぐような感覚で、地元の工業高校の建築学科に進学。卒業後すぐに、地元の工務店に現場監督として就職した。ずっと地元を離れずに歩んできたキャリアの始まりだった。

職人として手を動かすよりも、工事全体を見渡す仕事に惹かれたという。

「全工事全般を見ることがすごく楽しくて。職人というよりも、建築全般を見るような仕事にやりがいを感じていて」

18歳で入ったその会社で、濱口さんは20年間働くことになる。

自分の家の設計が、住宅への思いに火をつけた

勤めていた工務店は、公共事業や大きな建物を手がけることが多く、住宅とは少し違う仕事が中心だった。転機となったのは25歳のとき。結婚を機に、自分の家を自ら設計したことだった。

「昔からの記憶とか、住宅の現場の楽しさとか、っていうのが自分に着火してですね。大きな建築よりも、やっぱり住宅をしたいと」

働きながら一級建築士の資格を取得し、38歳で独立を決めた。1軒目の家を販売し、2軒目の家を設計する。そうした一つひとつの家を足がかりに、自分の事業として展開していったという。

長く地元で建築に携わってきたことは、今の会社のあり方にもつながっている。住宅づくりは、地域の職人やお客さんと深く関わっていく仕事だ。出会う人たちとの関係が濃いからこそ、自然と「もっと地域を良くしたい」「みんなが良くなるには」と考えるようになったと濱口さんは振り返る。

BDは「ボンドデザイン」。つながりを大切にする家づくり

ビーディホームの「BD」は、ボンドデザインの頭文字だ。つながりをデザインしたい、という思いが込められている。注文住宅で大切にしていることを尋ねると、濱口さんは二つのことを挙げた。

一つは、美しいものをつくること。建物は、完成すれば周りから見られ、町の景色の一部になる。社会性のあるものをつくっているからこそ、美しさにこだわりたいという。

もう一つが、お客さんとのつながりだ。

「ほとんどのお客様が、一生に一回あるかないかっていう大きな意思決定をしてくださって、私どもが選ばれるっていうのは、もう本当によっぽどのご縁だと思ってるんですね」

そのご縁を、家を建てて終わりにはしない。お湯が出なくなった、扉の開け閉めに不具合が出た。住み始めてから起こるさまざまなことに、すぐ駆けつけられる会社でありたい。そのために、仕事をする地域を伊勢周辺に絞り、遠方からの問い合わせはお断りしている。

「売上規模というよりも、その地域にいかに根ざしていって、地域として必要な会社として存続できるか。時間を経ても残っていくような会社でありたいなっていう思いが創業時からあったので」

その姿勢は、数字にも表れている。年間の売上のおよそ半分が、家を建てたオーナーからの紹介だという。高額な住宅は、紹介した友人ともめることを考えれば、紹介のハードルが非常に高い。そのなかで紹介が続いているのは、建てた後の関係があってこそだと濱口さんは語る。

山を買ってカフェを開き、伊勢にホテルをつくる

ビーディホームの事業は、住宅だけにとどまらない。10年ほど前には、山を一つ購入し、カフェと雑貨やインテリアを扱うライフスタイルショップを開いた。広い敷地を生かして、キャンプ場も生まれた。

「住宅っていう箱を売りますけど、やっぱり僕たちが提案したいのはライフスタイルで。一杯のコーヒーを飲む空間であったり、そこで使う食器とかインテリアとか、一つ一つにストーリー性を持って提案していくということを得意としているので」

今では、注文住宅を依頼してくれるお客さんの多くが、カフェやショップのファンや利用者だという。自分たちが発信する世界観が、きちんと伝わっている手応えを感じている。

カフェは、専門のコンサルタントに頼らず、すべて自社で運営している。開業当初はInstagramで一気に広まり、2時間待ちは当たり前。席に案内してから料理が届くまで1時間かかり、お客さんに怒られることもたくさんあった。

「その日のうちに、二度と同じミスとか間違いが起こらないためには、どういうふうに仕組みを構築すべきなのか、オペレーションを組み立てるべきなのかっていうのを必ず改善して。その結果、2か月後ぐらいには、もう怒られることもなくなった」

やったことがないからできない、ではなく、やってみて、スタッフと一丸になって組み立てていく。そのプロセスがすごく楽しいと濱口さんは言う。

昨年には、伊勢市内の宮町にホテルを開業した。旅が好きで、訪れた先で感度の良いホテルに泊まるのが楽しみだったという濱口さん。ただ寝るだけの場所ではなく、ライフスタイルを提案できるホテルをつくりたかった。宿泊は、日常とは違う「非日常のライフスタイル」の提案でもある。

オープンの時期は、伊勢神宮で20年に一度行われる式年遷宮に向けた行事が始まり、観光客が増える前に合わせた。ホテルはアートホテルとして、アートメディアを通じてアーティストを募集し、学芸員の審査を経た作家たちが参画している。館内に飾られた作品は、気に入ればその場で購入することもできる。さらに、ホテルの周辺には地元で愛される居酒屋や焼き鳥屋が多くあり、夜はそうした店で地元の人と交流してもらうことも思い描いている。4階建て10室の本館に続き、周辺の空き家を購入して宿泊施設に改装するなど、地域一帯で滞在を楽しめる分散型の宿泊施設づくりを進めている。

好きなことしかやっていない

次々と新しい事業に挑む原動力はどこにあるのか。濱口さんの答えはシンプルだった。

「まずは好きなことしかやってないっていう。僕は建築とかインテリアとかライフスタイル、アート、旅、こういった自分の好きな軸があって、その好きな軸を事業化しているので。大変なことを大変と思わないというか、良くするためにどうしようみたいな思考にしかなっていかないので」

新しい事業に対しても、怖さはないという。自分が好きでやりたいと思ったことには、前向きに進んでいける。一緒に働きたいのも、感性が合う人だ。自分たちの世界観に共感し、つくる建築や空間を居心地がいい、美しいと感じてくれる人。同じものを見て、何かを感じ、それを言葉にして伝えられる人がいいと話す。

AIの活用にも関心を持っている。社員は個人として調べ物などに使っているが、会社の業務にどう落とし込むかは模索中だ。図面から住宅の部材を一つひとつ手で拾い出すような泥臭い作業をうまく置き換えられないか。ただ、発注に関わる正確さが求められ、注文住宅は一棟ごとに内容が違うため、簡単ではないという。

若い人へ、体験に勝るものはない

若い人へのメッセージを求めると、濱口さんは「立派な人間じゃないんで」と前置きしつつ、自身の体験から言葉を紡いだ。携帯電話もなかった時代から働いてきて、この30年、40年で働き方は大きく変わったと実感している。それでも、変わらないものがあるという。

「どれだけ昔でも、どれだけ未来になっても、人間の本質ってあんまり変わらないと思うので。人間力っていうところで、そこを磨くような体験を。調べれば一瞬でいろんなことが知れますけど、興味があれば現地に行って、物を見て、感じて、体験して。やっぱりその体験に勝るものはないと思っているので」

体験に知識が加われば、なお強い。本質的な人間力を身につける意識と行動を高めれば、どんな仕事をしても、どんな場所に行っても必要とされるし、自分も楽しく生きられる。「僕もそうありたいなと思ってます」と濱口さんは笑う。

ビーディホームの仕事は、決して簡単ではないという。お客さんの強い思いを受け止め、形にするために、職人たちと一つひとつ膝を詰めて向き合う泥臭い仕事だ。その体験を喜びに変えられる人に来てほしい。そして、文化的にも意義のある伊勢という町で活躍する人が増えれば、伊勢はもっと楽しい町になっていくはずだ。現場で育った少年は今、家づくりを入り口に、伊勢の暮らしそのものをデザインしようとしている。

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