僕らが取材前に知っていたのは、アートプランタジマが壁紙を貼る内装の会社だということだけでした。ショールームを持っていることも、社内にインテリアコーディネーターがいることも、田島社長に聞くまで知りませんでした。
野球ばっかりやっていた
うちの父が壁紙を貼る職人として、家でやっていたのが会社の始まりです。私が小学校の頃に創業しました。
中学の頃は野球部でした。部活が終わったり、夏休みや冬休みになると、車に乗って父の現場に行くんです。建築現場のゴミを片付けたり、壁紙の機械を洗ったり。
高校は進学校でしたけど、野球ばっかりやっていて、勉強は大事にしなかったんですよ。
二年生で文系と理系に分かれるとき、野球部だから文系のほうが楽だろうと、単純に考えて文系に行っちゃいました。
文系の方が楽だろうと、単純に思って文系に行っちゃった。
社長は中学時代、父の現場を手伝っていた。高校では野球部だった。
大学受験で、初めて気づく
大学受験になって、初めて気づいたんです。うちは内装業、建築関係だぞ、と。建築学部に行かなくちゃいけない。でも文系で、数学の授業は取っていないし、建築学部は数学が必須でして。いろいろありました。
そこで初めて、気付いたら父の仕事を一緒にやろうと思っていたんです。
父から「継げ」とか「一緒にやれ」と言われたことは、一度もありませんでした。
学校を出てからは、建築関係でも内装業ではない異業種の会社に、社会勉強として三年という約束で就職しました。三年後に、うちの会社に入ったんです。

建築現場が、急に住まいに変わる
内装の魅力は、壁紙を貼ると、建築現場が急に住まいに変わることです。
大工さんがいる間は、お客さんにとっても建築現場なんですよ。そこに私たちが行って壁紙を貼ると、急に住まいになる。お客さんのテンションが、一気に上がるんです。
私はもう職人じゃないんですが、天井を張ったり、柄のあるものを施工するのを、お客さんが見ていることがあります。「天井ってそうやって貼るんだ」「つなぎ目が分からない」「すごいね」と喜んでくれる。それを目の当たりにできる。それがこの仕事のやりがいの一つになりました。
社長によると、壁紙を貼る前と後で、お客様の反応が変わりすぐに引越しをしたくなってしまうお客様が多いという。
壁紙だけじゃない会社にしたかった
私が会社に入ったときは、父と私ともう一人だけでした。ガテン系の職人集団です。
仕事が増えて、自分たちでやりきれなくなって、外注の職人さんを使うようになりました。
そのうち、壁紙だけでなくインテリアの魅力を発信できないか、価値を上げられないか、と思うようになったんです。カーテンやブラインド、家具。部屋の中全体の雰囲気をつくる、丸ごとコーディネートできる会社にしたいと。
36歳で社長を受け継いで、そこから十年かけて、ショールーム「FLOT」を持ちました。
今は壁紙を貼るだけの集団ではなくて、社内にインテリアコーディネーターが8人います。ハウスメーカーに出向いて、外壁の色、ドアや床、屋根の色まで、うちのスタッフたちが決めて形にします。施工するのはハウスメーカーの各専門の協力業者ですけどね。
壁紙だけじゃなくて、部屋の中全体の雰囲気をつくる会社にしたいなと思ったんです。

ショールームを持って変わったこと
ショールームを持つ前は、カーテンのカタログを持って現場に行っていました。パイプを立てて、サンプルのカーテンをいっぱい下げて、お客さんと打ち合わせをしていたんです。
今はお客さんに来てもらって、そこで決めます。説得力も納得感も、満足度も、かなり違うと思います。
うちと取引のないハウスメーカーで家を建てた方が、一見さんとしてカーテンを見に来ることも、ずいぶん増えました。
年に一回、マルシェもやっています。二十数社が出てくれて、お客さんがマルシェで初めてうちのショールームを見て、「こういう会社なんだ」と知ってくれる。
こだわりがあって、専門の人のアドバイスを受けたいという、意識高い系の方が来ることが多いかな。
社長は、同業で会社組織としてやっているところ、ショールームまで持っているところは、調べてもほとんど出てこなかったと話した。

こだわりを持ってほしい
今の若い子は、車一つ取っても、こだわりとか物欲が、あまりないじゃないですか。
私たちの時代は、彼女を軽自動車に乗せるとか親の車に乗せるとか、格好悪い印象があって。給料の大半を車につぎ込んで、格好つけて乗せたものです。
その中の一つに、家もあってほしいんです。一生に一度か二度しか建てないものですから、少しでもこだわって、お気に入りの空間に住んでほしい。帰りたくなる部屋にしてほしい。
テレビドラマの主人公が帰る部屋って、素敵じゃないですか。そこまでお金をかけなくても、壁紙一つ変える、カーテンを少しこだわるだけで、ずいぶん近づくんですよ。
「よくわからないから白い無地でいいや」という人が多いです。
数年前、中学校の美術の授業を手伝ったことがあります。PTA会長をやっていた縁で、美術の先生に頼まれて。子供部屋の模型を用意して、自分の部屋をつくってみようという授業でした。
壁紙の色より天井の色のトーンを上げると、部屋は天井が高く、大きく見える。そういう色や柄の持つ力を、授業で説明したんです。
中学一年生の子たちに壁紙をカタログを選ばせて、コンセプトと一緒に貼り出してもらいました。最初に驚いたのは、和風にする子が多かったこと。真っ黒にした子もいました。
それと、今はデジタルの時代なので画面で色柄を決めがちなんですが、子どもたちはカタログに貼ってある現物の壁紙を、全部触るんですよ。風合いとか肌触りとか、人はぬくもりを大切にしたいんだなと思いました。
リフォームのときのほうが、お客さんに遊び心が出る、ということもあります。
向こうから連絡が来る
採用は、今はスタッフのほとんどが中途です。みんな、向こうから興味を持って連絡をくれました。
新卒は取っていないんですが、新卒の子から問い合わせが来ることもあります。随時、興味のある子が来てくれたら面接をしています。
ホテルのフロントマンだった子、保険の外交をやっていた子、農家だった子。いろいろな経歴の子が、うちに来てインテリアを覚えています。
やめる人は、だいたい一年以内にやめてしまいます。でも、三年いるとそのあとは長いスタッフばかり十年選手、二十年選手もいるんですよ。
ネガティブなことを発しない人がいいですね。前向きで明るい、コミュニケーションのとれる子。技術や知識は、こっちが教えればできるようになります。
でも人間性は、変えられないし、教えられない。
お客さんにとっては一生に一度の家です。年間何百件とやっている私たちが、疲れた顔をしていたらいけない。楽しそうに打ち合わせできるほうがいいんです。
社長は、今後は少しづつ始めた外構の庭づくりに力を入れていきたいと話した。外構のスタッフが1人なので、外構の専門の人がほしい、とのこと。
会社組織でやっている内装屋さんはほとんどなくて、まして、ショールームを持っているところは、いくつもなかった。
若い人へ
意欲的にやりがいを持ってやっている時と、いやいややっている時では、疲れ方も感じ方も全然違います。
もちろん労働基準法は守るべきだし、自分の体を一番に考えるのが大前提です。そのうえで、没頭できるやりがいを見つけられる仕事に就いてほしい。
それまでは、仕事を変えてもいいと思うんです。何回変えたっていい。ただ、一ヶ月、二ヶ月じゃ何もわからないかもしれません。一年、二年、三年と一生懸命やってみて、目先を変えてみたくなったなら、それでもいい。
学校の勉強もそうです。技術も、美術も、音楽も、体育も、五教科以外のことをまんべんなく一生懸命やったほうがいい。自分がいつ、どんな仕事をしたくなるかわからないですから。
私は体育会系でずっとやってきましたけど、この年になって、アコースティックギターに魅了されて、趣味でギターを触るようになりました。
幅広く、薄くてもいいから、いろんなことに挑戦してみてほしいんです。それがいつか生きてくる。
就職した先でも、やりがいは与えられるものじゃなくて、自分から見つけにいくものだと思っています。
先輩の社長さんたちには、「考えてから動くんじゃない、考えるよりも動け」と言う人がたくさんいます。修正していけばいい、と。
考えるよりも動け。修正していけばいいんだ。
取材の終わりに、社長は、これまで営利目的の取材依頼は全部断ってきたが、学生からのこうした取材は初めてだと話した。業界内の取材や、テレビの取材は受けたことがある。
行く前、僕らはアートプランタジマを、壁紙を貼る会社としか知りませんでした。行った後、社内に8人のインテリアコーディネーターがいて、ハウスメーカーに出向いて外壁や屋根の色まで決めていることを、本人の口から聞きました。
取材: 島田大輝/ローカル文庫編集部

