株式会社グッド・ナル 代表 成瀬 和久

一言二言交わす隙間を作る

代表成瀬 和久

  • #インタビュー

公開 取材・文 ローカル文庫 編集部

この記事について

会社
株式会社グッド・ナル
所在地
三重県
話を聞いた人
代表 成瀬 和久
公開日
2026.10.27
聞き手
ローカル文庫 編集部

今回お話を聞いたのは、株式会社グッド・ナルの代表、成瀬和久さん。車椅子やベッドのレンタル・販売、住宅の工事を手がける会社です。取材では、学生時代のマスコミ志望から独立までの道のりと、社員との向き合い方について聞きました。

「今年はちょっとみんなには言ってないんですけど、あえて業務効率をもうしないようにしてます。」

01 マスコミ関係が志望だったんです

社会の仕組みを近くで知りたかった

学生のころ、起業という考えは特にありませんでした。

ただ、僕らは氷河期世代です。このまま会社勤めをしていて大丈夫なのか、と思い始めた世代だったのかなと思います。それでも、大学を卒業して、普通にサラリーマンになりました。

志望していたのはマスコミ関係です。自分たちはバブルを経験して、その崩壊も目の当たりにしました。どういう社会の仕組みになっているのかを、より近くで知りたかったんです。一つの業種に絞らずに、いろんな業種の社会を知りたいという思いもありました。あとは、ちょっとこの社会を変えられたらな、みたいな気持ちですね。

新卒は一回しか使えない

でも、受からなかった。

就職浪人をするか、どこか違う会社に入るか。大学の教授に相談したら、とにかくどこでもいいから就職しなさい、と言われました。社会に一回出てみることが何より大事だと。新卒というブランドは、一生に一回しか使えないから、と。

それで就職して、ある程度お金が貯まったら、もう一回マスコミの試験を受けようと決めていました。受験勉強に費やせるお金が貯まったところで、辞めたんです。

そのあと、地元のローカル紙がたまたま募集をしていました。実際には締め切っていたんですけど、面接だけでもしてくれないかとお願いしたら、拾ってもらえて。約五年、地元の記事を書いたり、営業をしたり。地元のホテルや結婚式場、いろんなところを回って勉強させてもらいました。

締め切っていた募集に頼み込み、地元で約五年働いたと、社長は話した。

02 もう少しジャンルを絞りたいと思って

読者が五十代を超えていた

私がいた雑誌が、ちょうど二十五周年を迎えました。

もともとは、社会に出て車を持ち始めた人が、まずどこに行こうかと手に取るような雑誌です。この辺も田舎なので。でも二十五年経つと、二十代半ばだった読者さんが五十代を超えて、もう少し落ち着いた誌面を見たいんじゃないかと。年齢層の高めの雑誌を作りたいと社内で話して動いたんですが、なかなか難しかったんです。

ちょうど高齢化社会がこれから始まる時期でした。高齢者施設などいろんな方に話を聞くと、高齢者の方は生活で困っていることが多い。

私はそのとき三十歳でした。

いろんな人の話を聞くよりも、自分の中でジャンルを絞って仕事に取り組みたい。そう思って、福祉用具の介護の業界に移りました。

家で暮らし続けるための伴走

お食事を食べてもらったり、お風呂に入れたりする仕事ではありません。ベッドや車椅子を、その人に合ったものでご提案する。施設ではなく、家で生活していく方に向けた仕事です。どれだけ長く家で生活できるかを、伴走していくような仕事なんですよね。

その会社に五年半ぐらいいて、独立しました。今、十三期目です。

家族といる時間がなかった

前の会社は、残業がかなりありまして。今となっては笑い話なんですけど、家族といる時間がなかったんです。それなら独立した方が時間を持てると思って、妻と二人で独立しました。

妻は前の出版社のときに知り合いました。福祉の業界は初めてでしたが、経理やお金のことは妻に任せて、私は売上を上げることに集中しました。

家族といる時間を持つために、妻と二人で独立したと、社長は話した。

03 地元の方に喜んでもらえるのが一番なのかなと思います

最初はとにかくお金がなかった

独立したときは、会社にお金がなかった。その日の売上で日々をカバーする、自転車操業でした。

人が増えると、お金の心配はなくなっていきます。でも今度は、組織として会社をまとめないといけない。人の悩みが出てくるんです。

今は、前の職場で一緒だった人が何人か来てくれていますし、介護施設や病院にいた人もいます。同業から来た人は、うちの方が働きやすい環境だったから選んでもらえるとうれしいです。介護業界の中で、違うことも知りたいと思った人もいたのかなと思います。

宣伝はできない仕事

お客さんは、個人のお家に住んでいる方です。

この仕事は、宣伝や飛び込み営業ができません。地域包括支援センターからのご紹介か、一人に一人つくケアマネージャーさんからの紹介で、お家に伺うことになります。

続けてこられたのは、私がこの地元の出身だというのもあると思います。

「地元の方がこう喜んでもらえるっていうのは一番なのかなとは思います。」

この間も、友達の母親や父親が、介護を受けるような年齢になっていて。お世話になった方を、逆にお世話する。力になれるのは、ありがたい仕事かなと思います。

04 業務効率を、あえてしないようにしています

育児休暇を時間で取れるようにした

一番特徴的なのは、育児休暇です。

まとめて休むと職場復帰が難しかったり、お客さんとの接点が空白になったりします。休みづらくて、取らない人もまだいらっしゃる。

だから、うちは日数を時間に換算しました。出産されたその日から、その時間をいつ取ってもいい。一日まるまる休むのではなく、遅れて出社してもいいし、子供が熱を出したら二時間で帰ってもいい。

他の人も、何日もまとめて休まれるより、フォローがしやすいんです。会社としても売上を下げずに、人の負担も減らせたかなと思います。管理は帳簿のようなものを作って、対応しました。

楽になったはずが、話さなくなった

去年は、業務効率化をかなりやりました。

効率は上がって、利益率も上がったんです。でも、短縮して残った時間に、結局みんなまた働く。逆に忙しくなっていないかな、というのが一つ。

もう一つは、年に三回の個人面談で、コミュニケーションをあんまり取らなくなったと言われたことです。

今年は、人が一言二言交わす、言葉の隙間を作るようにしたいなと思っています。

雰囲気作りを特別意識しているわけではありません。ただ、社員の小さい声はなるべく拾い上げて、できることは対応するようにしています。

05 自分の気持ちを曲げない方がいいと思います

健康なうちに会いたかった

五年前から、クラフト飲料の会社もやっています。

高齢者の方とお会いするときは、もう介護保険を使わないといけない、健康ではない状態なんです。健康なまま生涯を終えるにはどうしたらいいか。人と話す機会と、ある程度体を動かすことが必要なのかなと思いました。

「農業をやってる方が、九十歳になっても元気に活動してる方が多かったんです。」

農業をやってみたんですが、売る先がなかったら作っても仕方がない。それなら先に商品を作ってしまおう、ということでクラフトコーラになりました。

材料の生姜は、少しづつですが会社で作っています。生姜は割と育てやすいんですけど、ほぼ農業にかかりっきりになるので大変です。伊勢など三重県の観光地や、東京のアンテナショップ、百貨店の催事で販売しています。

ゆくゆくは、高齢者の方を雇って畑を作りたい。農業だけでは収益が出ないので、コーラの収益を循環させていきたいと思っています。

一方で福祉の方は、高齢者の数があと五年から七年でピークを迎えます。人を増やすというより、いる従業員の所得を上げたい。

設計図が崩れてしまう

最初の会社も、次の会社も、立ち上げるときにはいいことも悪いことも言われました。

「一回まあじゃあその人の言うことをやってみようかって思ってやってみるとだいたい失敗します。」

皆さん、自分の中に設計図があると思うんです。人に何か言われると、その設計図全体のバランスが崩れてしまう。意見を参考にするのはいいんですけど、全部自分で考えてするのが大事かなと思います。

ただ、親や奥さんの意見は聞いた方がいい。何か損害が出たときに、一緒に負担をしてもらう人たちです。自分のことをきちんと考えて言ってくれる人だと思うので。

取材では、地元の雑誌の仕事から福祉の仕事へ移った経緯と、社員の声で効率化を控えた話を聞きました。

取材: 島田大輝/ローカル文庫編集部

いちばん心に残ったのは、効率化を控えた話です。成瀬さんは、業務が楽になれば社員に喜ばれると思っていたのに、面談で「コミュニケーションをあんまり取らなくなった」と言われ、一旦控えてみたそうです。数字が上がっていても、社員の小さな声で方向を変える。その順番が、私には新鮮でした。

もう一つは、学生時代にマスコミを志望していた成瀬さんが、受からなかったあとも地元の雑誌に頼み込んで働き、そこで高齢者の困りごとに出会ったことです。遠回りに見える道が、今の仕事につながっていました。

「自分の気持ちを曲げない方がいい」という言葉と、親や奥さんの意見は聞いた方がいいという言葉。その二つをどう両立させるのかは、まだ自分の中で答えが出ていません。これから考えていきたいです。

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