「止まったら衰退が始まる」京都の内装会社が挑む、仕上げの仕事を文化にする道

代表取締役細井 和博

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継ぐつもりはなかった。会社を生かすための承継

株式会社インテリアホソイは、京都でリフォームや内装仕上げ工事を手がける会社だ。壁や天井のクロス貼りをはじめとする内装の仕上げを担い、カーテンの出張クリーニングを行う部署も持つ。代表取締役の細井和博氏は、父親が創業したこの会社の2代目にあたる。

細井氏が事業を引き継いだのは2011年2月。2008年から2009年にかけてのリーマンショックの影響が色濃く残る時期だった。これまで経済に急激なダメージを与える出来事はいくつもあったが、リーマンショックは自身が経験したなかで最もインパクトが大きかったと振り返る。

「本当にね、仕事が急激になくなっていったんですよ」

当時、社長は父親で、細井氏は専務という肩書きのもと、実際には現場監督のような仕事をしていた。経営はもともと決して楽ではなく、苦しい状況が長く続いていた。それがいよいよ耐えられないところまで来たとき、細井氏が考えたのは、どうすれば会社を延命できるかということだった。

従業員もいた。自分たち家族の生活もあった。社長が若くなれば、従業員は「もう少し様子を見よう」と残ってくれるかもしれない。借り入れをしている金融機関も、もう少し融資をしてくれたり、返済を待ってくれたりするかもしれない。当時40歳か41歳だった細井氏は、父親に交代を申し出た。

「こんなことやりたいとか、変わってこういうことをやっていこうとか、そんな綺麗なことではなくて。どうやって明日明後日生きていこうかなっていう中で、もう選択肢としてそれしかなかったんです」

そもそも細井氏は、経営者になりたいとは思っていなかった。家業の中小企業は生活と仕事が混ざり合いやすい。携帯電話のない時代、父親は夜に帰宅して晩ご飯を食べたあと、家から電話で仕事の連絡を取っていた。うまくいっていない経営の様子も、ずっとそばで見てきた。だからこそ「絶対に経営者になりたくなかった」という。

「継ぐっていうんじゃなくて、生き残りたかった手段が、たまたま事業承継という形やったということですわ」

止まった瞬間から衰退が始まる

承継から十数年。周囲からは「うまくやっている」と言われることが多いという。しかし細井氏自身はそう思っていない。今も悩みは尽きず、うまくいかないことの方が多い。「だいたい経営ってそういうもん」と淡々と語る。

それでも挑戦を続けてきた根底には、ひとつの考え方がある。

「止まったらもう終わりやと思ってるんですよ。これでいいやという風になった瞬間に、そこから後退というか衰退が始まると思ってるんで」

売上も同じだという。今のままでいいと思えば必ず下がっていく。上げようとしていても下がるときはある。だからこそ、上げ続けることを考え続けなければならない。

その背景にあるのが、人口減少への危機感だ。人が減れば、お客さんも減る。人口が増えていた時代は、いい仕事をすればまた発注が来て、その繰り返しで売上も人も増えていった。しかしこれからは逆になる。大きな会社は海外に活路を求められるが、地方の小さな会社はそうはいかない。人口が減っていく京都のなかで、生きていかなければならない。

「今までと同じことをやってて、それが上がっていくなんてことは到底考えられないわけですよ。だからいろいろできることからやっていかなあかんっていうので、実践しているだけの話なんです。攻撃が最大の防御なりっていうのは、まさにそういうことかなと思いますね」

外から見えている会社の姿は「氷山の一角」にすぎないとも細井氏は言う。建設業界にはさまざまな問題が横たわっており、それは避けて通れない。それらを抱えたままでも会社を残していく。その考えから生まれる行動が、周囲の目に映っているのだという。

「日本一お客さんを思う」を事業で示す

会社の強みを尋ねると、細井氏は一言でこう答えた。内装という仕事で、お客さんに喜んでもらいたいという気持ちを日本で一番強く持っている、と。

ただ、それを口で伝えても通じにくい。だから事業で表していかなければならないと考えている。その表れが、10年間のカーテン無料クリーニングや、内装工事のデザインから施工まで責任を持って手がける「Dパック」といった取り組みだ。これらは実際にはお金をもらっていないという。

なぜ無料でできるのか。社内にデザインのできる社員がいて、カーテンの出張クリーニングを行う部署もある。購入してもらったオーダーカーテンを、その部署の仕事に混ぜて洗うだけなので、コストを抑えられる。販売促進として考えれば、無料で提供しても採算は取れるだろうと判断した。

「そこまでやるのはなぜかと。日本で一番、この仕事でお客さんに喜んでもらおうと思ってる姿勢の表れやと感じていただけたら、僕としては一番ありがたいなと思ってるんです」

誰もが目にしているのに、知られていない仕事

細井氏が一貫して掲げているのは、業界の発展だ。建設業は、屋根、塗装、外壁、基礎、電気、水道といった専門工事業が力を合わせて一つの建物をつくる仕組みになっている。専門工事業は29種類あり、そのなかで内装仕上げ工事の地位は低いと細井氏は言う。

理由のひとつは、受注金額の小ささだ。建物全体の工事費のなかで内装仕上げが占める割合は小さく、単価が安い。もうひとつは、比較的誰でも開業しやすいこと。さまざまな人が参入し、きちんとした考え方を持たない業者も少なくないため、安物扱いされてしまうのだという。

「出来上がった建物の中では、全部見えるところの仕事やってるんですよ。我々が最後に仕上げんことには建物が完成しないんです」

取材中、細井氏はオンラインで話を聞いていたインタビュアーに、こう問いかけた。今いる部屋の壁や天井に、クロスは貼ってありませんか――。貼ってあると答えると、「それ、僕らがやってるんですよ」と返ってきた。人が生活するなかで必ず目にしているのに、その模様やテクスチャーまで気にかける人はほとんどいない。仕事は誰もが目にしているのに、ほとんど認識されていないのだ。

細井氏は、クロスが日本で普及したのはここ50年ほどのことだと説明する。それまでは左官の塗り壁や土壁などが主流で、昭和30年代頃から人口が急増し、建物を早く建てる必要が生まれるなかでクロスが広まった。重要文化財の修復にも関わる左官や経師のように、何百年も前から続く仕事とは違い、内装仕上げはまだ「文化」のレベルに達していないと考えている。一方で、日本の家屋の仕上げのほとんどはクロスであり、日本のクロスの消費量は世界でも第3位だという。

「五年後、十年後、十五年後も存在し続ける仕事にしようと思えば、やっぱり文化レベルにしないとダメやなと思ったんで、ビジョンの中に文化っていう単語を入れさせていただいたんですわ」

これは一社や自社の社員だけで解決できる話ではない。同業者と力を合わせて取り組むべきことだと細井氏は考えている。重要な仕事をしているとみんなが思えて、それがお客さんに伝われば、仕事の価値も上がり、若い人も来てくれる。そうした環境の方が、働く人もやりがいを感じられるはずだという。

分業から内製化へ、質で価値を上げる

ビジョンに向けて細井氏が最も大事だと考えているのが、すべての工程の内製化だ。建設業も内装業界も分業制で成り立っている。現場でクロスを貼る職人、仕事を受けて見積もりをする営業会社、材料をつくる会社や販売する会社。分業は同じものを大量につくるには優れた仕組みだが、もっとお客さんに寄り添いたい、もっとクオリティを上げたいと考えたとき、逆に足かせになることがあるという。

「生産性の向上っていうと大量生産みたいなイメージなんですけど、そうではなくて質を上げないと、僕らの価値が上がっていかないので」

一人の人が広い範囲の仕事に関わるほど、クオリティは上がる。その分、大量生産的な生産性は落ちるが、それを質でカバーしていきたい。その近道が内製化だと細井氏は考えている。

そして内製化に最も必要なのが、人を育てることだ。経営者として第一に考えていることを尋ねた際にも、細井氏は「人がいないとダメなんです」と語っていた。建設業は若い人から人気がなく、業界全体で人が減り、高齢化も進んでいる。現場の仕事は夏はとても暑く、冬はとても寒い。時間を短くしたり休みを増やしたりはできても、その環境自体は変えようがない。

「だけどやっぱり、最後に出来上がったものを見てお客さんが喜んでくれはるっていうところを見ると、マラソンじゃないけど、苦しかったことも良かったなと思えるんで」

仕事を通じて人が成長し、やりがいを持って長く働いてもらえること。それこそが一番の課題であり、それさえできていれば会社も残っていくと細井氏は言う。かつてはハローワークに求人を出せばすぐに応募が来た時代もあったが、今は有料の媒体にも掲載している。ただ、実際に入社につながっているのは、所属する中小企業経営者の団体が主催する合同企業説明会や、学校と連携した説明会、インターンシップ、そして数社で連携して行っている若い人に仕事を知ってもらうワークショップなど、アナログな接点の方が多いという。

若い人へ、壁は横に避けずに登ってほしい

学生や若者に向けて、細井氏はまず、働くことの長さについて語った。40年、50年と働くなかで、すべてが思った通りに進むはずがない。自分がきちんとやっていても、社会の出来事によって状況が変わることもある。大きな会社に入れば安心という時代でもない。

「働くっていうのは、稼ぐっていうだけじゃなくて、まさしく生きていくっていうことかなと思ってて。だから、ちっちゃい会社であっても、経営してるっていうのはそういう責任がやっぱりありますよね。その責任が原動力になってるというか」

働く意義についても、細井氏の考えは率直だ。働く意味は、実際に働いてみないとわからない。入社すれば、思っていたのと違うと感じることの方が多いだろう。そのなかで、自分がここで働く意味を考えるようになる。それには数年かかるかもしれない。だからこそ、会社が外に見せる姿と中身は一致していなければならない、と細井氏は話す。SNSで発信する担当者にも「いいね」はいらない、自分たちが大事にしていることを知ってもらえればいいと伝えているという。

一方で、若い世代との関わり方には悩みもある。最近よく耳にする「老害」という言葉が気になり、どこからがそうなのかを考え込んでしまうという。

「本当は腹割って、もっと向き合って話したいなと思うんですけど、そういう時間を取ることすら彼らにとっては良くないのかなと思って、遠慮がちなんですよ」

それでも伝えたいことがある。人生には大小さまざまな段差が何度も訪れる。上り調子のときは気にしなくていい。問題はうまくいかないときで、その時の考え方や乗り越え方で、次の上がり方が変わってくる。

「うまいこといかへんことが来たときは、あえて正面からそれに向き合ってほしいなと思うんですね。横へ避けていくんじゃなくて、やっぱり登ってほしいなって。乗り越えた先に、また自分が想像してへんかったような景色があるんですよ。それは乗り越えたやつにしか見えないんです」

日本の人口は毎年大きく減り続けている。人が減っていくのは日本の歴史上初めてのことで、その当事者になるのは今の若い世代だと細井氏は言う。だからこそ、自分の会社に来てくれた若い人には、それを乗り越えていくための知識やスキル、そして何より「やっていくんや」という気持ちを、仕事を通して伝えたい。

体は少しずつ動かなくなってきたけれど、人生で言えば今が一番楽しめている――。うまくいかないことも多いと笑いながらそう話す細井氏の言葉は、壁を越えてきた人だけが持つ重みを帯びていた。

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