今回お話を聞いたのは、富山でカシミヤのニットを企画・製造・販売する株式会社ジェイコムの代表、若林敏樹さん。取材した僕らは富山に行ったことがなく、カシミヤのニットもあまり知らない業界でした。取材では、会社を継いだ経緯と、手で編むことへのこだわりについて聞きました。
「手動の横編み機で、一点一点お作りしてるんです。」
01 父親から、この仕事を手伝わないかという話をもらいました
二十代の頃は、建築の方に進んでいました
この会社は、私の父が創業した会社です。
今の会社の一つ前の会社もあって、途中で少し変わっているんですね。カシミヤのニットの会社としてスタートしたのは、平成の元年になります。
それがずっと続いてきたんですけど、父が亡くなりまして。もう七年、八年ほど前かな。その少し前ぐらいから義理の母がついていました。その母も、年齢的には今七十代後半に入っています。
それで、私が承継して代表になりました。
私自身は、二十代の頃は建築の方に進んでいました。全く別の分野です。正社員として、そちらで働いていました。
普通の社員と同じような感じで働いていました
20年ぐらい前に、父親の方からこの仕事を手伝わないかという話をもらいました。検討した結果、あと継ぎという形も含めて会社に入ったんです。
入ってからしばらくは、本当に普通の社員と同じような感じで働いていました。営業したり、生産管理したり。
経営者としての動きは、ここ数年なんですよね。
若林さんは建築の分野で働いたのち、父親の誘いで会社に入り、承継して代表になったと話した。
02 新しいお店や取引先を開拓していく難しさを感じています
主な販売は、お店へ商品を卸すことです
主な事業は、カシミヤのニットの企画、製造、そして販売です。
直接の販売も一部していますけど、メインはブティックや百貨店の中のインショップへ商品を卸す仕事になります。取引先は、商店街の中に入っているブティックさんや婦人用品店さん。そういうお店が全国にあるんですね。
お店で受注会もしています。サンプルをお店にお送りして、お店の方がお客様とサンプルを見ながら試着会のようなことをしていただくんです。気に入っていただいたら、色やサイズを選んで発注してもらいます。
価格は七、八万ぐらいから、高いものだと二十五万、三十万というニットもあります。上質なものを求めて、落ち着いたミセスの方たちが買いに来られるお店なんです。
オーナーさんも年齢を重ねていかれるので
今は、昔に比べると、物がたくさんは売れない時代になってきています。
お客様もお年を召されて、施設に入られたり、体を壊されたりして、外出する機会が減ってくる。お客さんが少しずつ減っていくこともあります。
それと、取引先のお店の多くは、1970年代、80年代のころにたくさん出たお店なんです。お店に商品を並べると、お客さんがどんどん買っていった時代がありました。それ以降は、なかなか増えていないんですね。
今お付き合いしているところも、ほとんどが六十代後半、七十代、中には八十代のオーナーさんもいらっしゃいます。お店を畳むというところも出てきています。
どんどん新しいところを開拓していかないと、ということはすごく考えています。
お店から、少し離れたところにいいお客さんを持っている知り合いのお店があるから行ってみたらどうか、と紹介していただくこともあります。こちらでも、その地域の一番店と言われるようなお店をネットで調べて、リストの中から選んで電話したりしています。
取引先のお店とお客様の高齢化が進み、新しい取引先の開拓を考えていると、若林さんは話した。
03 職人さんが手で回して作っていくんです
コンピューターでガーッと編むのではなく
うちのような形でカシミヤのニットを作っている会社は、昔はたくさんあったんです。今はだいぶ少なくなってきています。知り合いの会社でも、会社を閉めたり、カシミヤの生産はもうやめたというところが増えてきました。
原料が高騰しているのが一つ。
それと、うちが特殊なのは、自動機というコンピューターで編んでいく方法ではなく、手動の横編み機で一点一点お作りしているところです。
職人さんが手で回して作っていくので、目と目の間をしっかり詰めながらも、しなやかさを保った製品を作ることができます。着心地もいいんです。
一点一点作るので、お客様のオーダーにも応えられます。袖丈を少し短めに、襟の高さを高く、というオーダーをいただければ、一着一着全部カスタマイズできるんですよ。
ほとんどの会社が自動機での大量生産になってきていて、日本でも、海外の中国の会社でもそうです。目の数を手で調整しながら編める職人さん自体が、もういらっしゃらない。
柄編みの技術もあって、多色使いで細やかな表現ができる。大量生産では表現するのが難しいところが、手で作る魅力でもあります。
長く大切に着ていただくことができます
お客様には、ここにラインを一本入れてほしいとか、襟の太さを少し細くしてほしいとか、人によってこだわりがあるんですよね。
そのこだわりを表現できたものには、愛着が湧いてきます。着古して捨てるものではなくなってくるというか。ニット一着一着に対する思いも含めて、大切にしていけたらいいなと思っています。
急激に大きくするのとは、ちょっと違うかな
この技術を身につけようと思えば、何年もかかります。最初の一年ぐらいはベーシックなものだけで、そのうちに凝ったものもやっていけるようになる。七万、八万、十万という商品を作る以上、うまくいかなかったけどいいや、とはいかないんです。
だから、急激に会社を大きくしたり、たくさん人を雇ってどんどん作ったりするのとは、ちょっと違うかなと。
「一点一点お客様から注文を受けながらそれに対して答えていける会社としての規模っていうのがきっとあると思うんですね。」
そこをちゃんと守りながらやっていけたらいいな、と思っています。
今働いている方には50代、60代の方もいらっしゃいます。30代の方も二人ぐらいいます。いずれまた、受け継いでいただけるような人が入っていただける形を取れるようにとは思っています。
手動の横編み機で一点ずつ編み、注文に応えられる規模を守りたいと、若林さんは話した。

04 富山って、日本の真ん中ぐらいにあるんです
コツコツ真面目に積み重ねていく
たまたまですけど、富山には、もともとこういうことをやっている会社がいくつかあったんですね。
「その会社がもう今はなくなってしまってるんですけど、そこで働いてた従業員の方たちが今ちょうど残ってうちに来てくださってて、そういう人たちがいるからこそ今この富山でやってるというのがあると思います。」
工場の中で働くと、淡々と同じ作業を繰り返すことがたくさんあります。同じ作業の中でも、より良いものを作ろう、お客様に喜んでもらうにはどうしたらいいだろうと考えて突き詰めていく。コツコツ真面目に積み重ねるのは、富山の県民性に合っているかもしれません。
うちもニットなので、同じような作業を繰り返しながらいろんなものを作っていきます。コツコツやっていける人じゃないと、続けていくのは大変だったりしますね。
富山は、地理的には日本の真ん中ぐらいにあると昔から言われています。私も北は青森のむつ市から、鹿児島の方まで、お店を回ることがあります。真ん中からなので、行こうと思えば一日、二日あれば行ける。
すごくいい場所だなとは思うんです。ただ、若い学生さんが富山から出ていって帰ってこない、という話は知り合いからも聞きます。地方であるが故の大変さは、皆さん感じているところかなと思います。
短い動画の発信は大事だと思っています
作っている様子を知ることで、興味が湧いたり、関心を持っていただける機会は増えると思うんです。だから発信は大事だと、すごく思ってはいます。
でも、私はまだまだ全然追いついていなくて。専門的な知識がないので、どうしていいかわからんというのが正直なところです。
富山はコツコツ積み重ねる風土があり、立地もいい場所だが、地方であるが故の大変さもある。短い動画での発信は大事だと思いつつ、専門的な知識がないと、若林さんは話した。

05 人生の中で一つに決めなきゃいけないと思う必要は、全然ないんじゃないかな
全然分野は違うけど、役に立っています
自分の若い時を振り返って言えるとすれば、若い時はいろんなことに挑戦するのが許される時期だと思います。
私も建築の方だったり、飲食の方にもしばらくいたりしました。そこで働いていたことが、今になって役に立っていることが結構あるんです。全然分野は違うけど、考え方の基本が共通していたりとか。
就職のときに一つの会社を選ばなきゃいけないと、すごく悩む方もいると思います。会社を辞めるのは勇気のいることで、決して楽ではないと思うんですけど。
会社を変わることも含めて、人生の中で一つに決めなきゃいけないと思う必要は、全然ないんじゃないかなと思っています。
自分らしくありたいという気持ち
みんな慎重になって、硬いところを探してそこに集まろうとする。でも、地方の企業に入ることも含めていろんなことを経験してみると、自分の思っていなかった人生が開けたりもするんですよね。
人と比較することは、決して悪いことじゃないんです。でも、あんまり人に合わせていると、自分が本当にやりたいことが分からなくなったりもする。私自身もそうでした。
うちは、どこにでも売っている服ではなく、自分が本当に着たいものを自分でオーダーして作るという感覚の商品です。そういうこだわりを持つ感性を育てていただけると、社会としても楽しくなっていくのかなと。
最初は人の真似をしながらでもいいんでしょうけど、そのうちに自分らしくありたいという気持ちを持っていただけたら、人生楽しくなるんじゃないかなと思います。
取材では、カシミヤのニットを手動の横編み機で一点ずつ編む話と、若い人へ伝えたいことを聞きました。
取材: 島田大輝/ローカル文庫編集部
私はカシミヤのニットのことをほとんど知らないまま、お話を聞きました。いちばん心に残ったのは、職人さんが手で回して一点一点編んでいるという話です。袖丈や襟の高さまで一着ずつ変えられると聞いて、服を「選ぶ」だけでなく「つくってもらう」という買い方があるのだと知りました。
もう一つは、若林さんが急激に大きくするのとは「ちょっと違うかな」と話していたことです。注文に応えられる規模を守りたいという考え方は、増やすことが正解だと思いがちな私には新鮮でした。
若林さんは、人生を一つに決めなきゃいけないと思う必要はないとも話していました。人と比べて同じ道を選びがちな自分が、自分らしいこだわりをどう育てていけばいいのか。それはまだ答えが出ていないので、これから考えていきたいです。

