株式会社ケイデン 代表 千葉 直雄樹

運が良かっただけですよ

代表千葉 直雄樹

    公開 取材・文 ローカル文庫 編集部

    この記事について

    会社
    株式会社ケイデン
    所在地
    三重県
    話を聞いた人
    代表 千葉 直雄樹
    公開日
    2026.10.25
    聞き手
    ローカル文庫 編集部

    今回お話を聞いたのは、株式会社ケイデンの代表の千葉直雄樹さん。四日市で、石油化学プラントのコンビナートを主なお客さんとする計装工事の会社です。取材はオンラインで、学生時代から今の仕事に就くまでの経緯と、仕事のこと、これからのことを聞きました。

    「結果としてこうなっちゃったってことですよ。」

    01 この業界に入ろうなんて、全然思ってないんです

    二度も落第しました

    学生の頃から、この業界に入ろうと思っていたか。 いや、全然思ってないんですよ。

    私は、自分の意志で人生をコントロールしてきたわけじゃないんです。行き当たりばったりですね。意志も弱いし、出たとこ勝負というか、非常にいい加減な方法で生きてきました。

    学校では二度も落第しています。卒業した年が、第一次の石油ショックの時代だったのかな。就職なんて全然ない。結局、親のコネで入れてもらったわけです。

    「帰れ」と、四日市に返されました

    本社は鶴見というところで、そこに入れてもらいました。仕事は、今やっている計装工事です。興味があるないにかかわらず、父親が勤めていた会社ですから。家族ですから、日頃から愚痴の一つも聞いているわけで、会社の雰囲気はなんとなく想像できました。

    「何も私がこれをこういう業界でなんかやろうなんて思ったことはもう全然ないですよ。」

    本社で現場を何件かやって、「お前なんかもう帰れ」と言われて。四日市に返されたんです。めちゃめちゃですよ。

    父親はもともと岩手県の出身です。四日市に来る前は東京にいました。サラリーマンですから、定年になれば定年退職です。でも岩手に帰っても何もないし、東京にそんなにコネがあるわけでもない。それで、今までの経験や人間関係を生かして、四日市でちっちゃな工事屋を始めたんです。

    親に入れてもらった会社で、肝心の親がどこかへ行っちゃったわけですから。しょうがないですよね。

    出来の悪いせがれもいるわけだから、じゃあお前もこっちに来て手伝え、と。それで最初の会社は辞めました。今いるのは、親父が作った会社です。親父はもうだいぶ前に死んじゃいましたけどね。

    計装工事は同業が少なく、競合もあまりいないと、社長は話した。

    02 施工管理は、現場の使いっぱしりですよ

    計器を装備するから、計装

    計装の「計」は、計測器の計です。物を測るということですね。「装」は服装の装。計測器を装備するという言葉を短くして、計装というんです。

    私は経営工学科を出ていて、学校で計装なんか全然関係ないんですよ。制御工学をやってきた人は興味を持って来るみたいですね。ただ、そっちはエンジニアリングになってきます。うちは施工会社ですから、そんな難しいことはやらないわけです。

    施工管理というと聞こえはいいですけど、工事をやってきた私だから言うと、現場の使いっぱしりです。

    石投げりゃ電気屋に当たる

    四日市はコンビナートの町です。お客さんとのつながりもあるし、競合する業者もあまりない。よく、石投げりゃ電気屋に当たるという言い方をするんです。電気工事屋はいっぱいいる。ところが計装工事となると、そんなにないんですよ。

    続けてこられたのは、運が良かっただけです。日本の高度経済成長の頃に、四日市がコンビナートで発展してきた。そこにたまたまついていた。計装工事に競争相手があまりいなかった。だからここまで続いてきたんじゃないかな。

    私が何かをやったというほどのことは、何もやってないですからね。

    今後について聞くと、最近は銀行やお客さんから事業承継のことをよく聞かれると、社長は話した。

    03 将来はどうなるか、全然分かんないよ

    「どうするんだ」と聞かれます

    私の年齢もありますからね。この後どうするんだい、と。銀行さんなんかは、年を取ってももうろくしないような経営者じゃないと、安心して付き合えないから、半分尋問調に聞いてきます。あなたの責任でやらなきゃいけないじゃないか、と。

    逃げちゃうわけにいかない

    今のうちの会社の状況はいいんです。いる人たちがだんだん経験を積んで、安定して仕事をこなせるようになりましたから。でも将来どうなるかは、本当に全然分かんないですよ。

    だからもたもたしているわけです。しょうがないから頭を抱えて、よく分かんないなと思っている。それが現状ですね。

    社員は、女性も入れて十人ぐらいかな。その人たちの生活もかかってくるわけだから。

    「どっか逃げちゃうわけにいかないわけだ。」

    学生時代はそれができたんです。勉強が嫌になると北海道に逃げちゃってね。北海道の牧場で、牛を追っかけていました。今はそういうわけにいかないですから。

    04 板挟みになるのが、仕事みたいなもんなんです

    一人前まで、相当時間がかかります

    人を増やすかどうか。それも分からないですね。

    人を入れるということは、その人が一人前になって、よく言う「元が取れる」ところまでいかないといけない。計装は、興味のある人にとってはいろいろ面白いこともあります。でも普通に仕事をしようと思ったら、一人前になるまで相当時間がかかるんです。

    今うちにいる人たちは、ある意味で我慢して、コツコツやってきて今がある。お客さんからも信用されています。でもそれまでに、辞めた人もいっぱいいますね。

    うちは下請けが多いんです。建設でいうゼネコンのような元請けがあって、その下に一次、二次、三次とつく。この仕事は、お客さんとのコミュニケーションと、協力業者とのコミュニケーション。その両方に挟まって、板挟みになるのが仕事みたいなもんなんですよ。それが辛くなってしまう人もいるみたいです。

    今残っているのは、それをずっと耐えてきた強い人たちです。だいたい四十から五十前後じゃないですかね。私はもう七十四ですから、いつまでやってるんだと言われます。

    だけど、うちに来てくれている協力業者の職人さんには、私より年上の人もいっぱいいますよ。八十近い人も結構います。この業界、やはり人がいないんです。外国の人もどんどん増えてきています。その中でやっていると、それなりに仕事はあるんですね。ただ、いつまであるかは分からない。

    今は、募集を控えています

    採用の募集は、今は全然していません。

    AIの活用について聞くと、現場の仕事は人間関係の調整が主で、AIを生かしにくい面があると、社長は話した。

    05 謝りの文章に、AIを使ったことがあります

    頭をパイレンでこつかれて

    施工管理というのは、下請けの現場監督です。お客さんがいて、協力業者がいる。協力業者には、職人の仕事をやってきた人もいます。

    若い頃、現場の親方みたいな人に言われましたよ。「俺たちは頭パイレンでこつかれて仕事覚えたんだよ」って。パイレンはパイプレンチ、鉄のハンマーみたいなものです。板前さんでも、包丁の後ろで殴られたという人がいる。そうやって手に職をつけた人たちですから、一筋縄じゃいかないところがありますよね。

    そういう人たちと、サラリーマンのお客さんとの間で、私たちは仕事をしているわけです。顔色を見てやっていく。だからAIはあまり出てこないんです。

    使ったことがあるのは、顛末書です

    私が使ったことがあるのは、顛末書ですね。ちょんぼしたときの謝りの文章です。ChatGPTに言うと、パパッとそれに合わせて書いてくれる。いろんなことを並べておいて、A4の紙二枚分ぐらいにまとめてくれ、と言えばバーっと出てくる。あれはやっぱりいいですよね。そういうのは使います。

    ふざけて言うんですけど、この仕事ははったりとごまかしと忖度だと。

    人手がないからAIも採用していますし、書類の流れも電子データに変わってきています。ツールとしては大事です。でも仕事となったときには、違うところを結構重要視する面がありますね。

    「エンジニアの仕事ですよね、これはね。」

    06 計装は、エンジニアリングだよな

    新しいものを、結構早く採用します

    計装の魅力ですか。どうだろうな。

    研究段階やプロトタイプのような状態でなくても、実用になる新しいものをどんどん採用していく。そういう面では、計装は新しいことを結構早く取り入れます。

    私が入社した最初の現場は、プラントにコンピューターを導入した最初のプラントでした。もう何十年前ですよ。光ケーブルも、随分早くから採用していました。

    そうすると、計装というのは計装エンジニアリングだよな。

    若い人に、説教はしません

    若い人へのメッセージ、と言われても困るんですよ。最初に言ったみたいに、やっぱり運が良くないとダメだよね。何をするにしても。

    運が良くないとダメだということは、本人の努力じゃダメなのか、ということにもなる。でも、松下幸之助だったかな、人を採用するときに運のいい人を採用する、というような言い方をしていますからね。とりあえず、俺は運がいいんだと思ったらいいわけです。

    私は深く考えないで、行き当たりばったりでやってきました。だから自信を持って、こうしなさい、とはなかなか言えないんです。なるようにしかならねえんだよ、という話しかできない。

    「あんまり若い人に説教はしないようにしてますよ。」

    私の親父なんて、10年で12回転職していますから。逆にそれを見てきたから、私はあんまり希望を持たないんです。先に明るい未来なんかないだろう、と思ってやっている。そんな感じですよ。

    私は運がいいから、こうやっているだけです。運が悪かったらどうなるんだろうか、と思います。

    取材では、親のコネで入った業界から父親の会社を継いだ経緯と、計装工事の仕事、先の見えない将来、計装の新しさについての話を聞きました。

    取材: 島田大輝/ローカル文庫編集部

    いちばん心に残ったのは、千葉さんが何度も「運が良かっただけ」と話していたことです。七十四歳で、十人ほどの社員を抱えて会社を続けてきた方が、自分は何もやっていないと言い切る。社長がそう話すのを聞いて、驚きました。

    一方で、社員の生活がかかっているから「どっか逃げちゃうわけにいかない」という言葉には、謙遜とは別の重さを感じました。学生時代は北海道の牧場に逃げていた人が、今は逃げずに頭を抱えている。その正直さが、きれいな成功談よりも強く残っています。

    計装が「エンジニアの仕事」だという話も、私はこの取材で知りました。ただ、新しい技術が入るほど現場の仕事が減っていくという話は、まだうまく飲み込めていません。新しさと将来の見えなさが同じところにある仕事を、若い人がどう選ぶのか。これから考えていきたいです。

    この会社に興味を持った方へ

    株式会社ケイデンのこの会社のサイトを見る

    まだ知らない景色を、一緒に見に行こう。

    あなたの会社のストーリーを、学生に届けませんか?

    取材・掲載は無料、オンラインで約60分です。

    LINEで取材を相談する

    学生の方へ

    活動について、LINEで話を聞いてみる。

    LINEで話を聞いてみる