今回お話を聞いたのは、佐賀の株式会社セリタ建設の代表、芹田章博さん。地盤改良工事中心に展開している総合土木工事を手がける会社です。取材では、家業に戻った経緯、会社のリブランディング、社員との向き合い方、そして学生へのメッセージについて聞きました。
「私の自己ミッションとしては地方に働きがある会社を増やすってことなんで」
01 なんとなく法学部に入ったんです
高校から大学は、あんまり意識してなかった
高校から大学にかけては、家業のことをあんまり意識してなかったんですよね。 なんとなく経営側だしと思って、たまたま法学部に入りました。 今考えたら、もっと自分のキャリアとか意識して学部選びしたが良かったのかなと思います。
足りない分は、ダブルスクールで税理士の勉強もしようとしました。 でも、なかなかモチベーションが上がらなかったんです。 バイトもやってるし、ダブルスクールはきついなと。途中で挫折しました。
二年間、専門学校に行った
卒業する間際には、気持ちがいくつかありました。 就職するのか。まだ学生のままでアイドリング期間がほしいのか。 とはいえ、実家の家業を継がなきゃいけない。
それで、二年間、専門学校に行きました。 だから、志が高かったわけではないんです。
四年間プラス二年間を、アイドリングしたいという思いでした。 全然志とかないまま、過ごしていましたね。
大学のあと専門学校に進んだのは、自分のやりたい仕事やキャリアプランが見えなかったので、アイドリングの期間がほしかったからだと、社長は話した。
就職が決まった会社が、業績悪化で
就職は地盤改良工事の最大手の建設会社に決まったんですけど、その会社が急激に業績悪化になりました。 そのあと入ったのが、大手のゼネコンではなくて、実はローカルのゼネコンなんです。
逆に、そこが良かった。 もしそのまま大手のゼネコンに入っていたら、小さな駒だったと思います。 ローカルの会社では、入社の時からある程度の規模の現場を任せてもらえました。
現場から予算、進捗、手配まで全部です。 会社の内部のデータの取り寄せとか、総務的なことも自分で知りました。 予算のフォーマットはこうした方がいいよ、というところまでやらせてもらったんです。
この学びの深さは、結構大きかったですね。
学ぶ領域の広さと、深さ
ゼネコンだと、ビルを建てた、道路を作った、橋を作ったという大きな仕事があります。 でも、本当に小さな駒として、ここだけやっておけばいいという領域の狭さがある。 小さい会社なら、会社なりに学ぶ領域の広さと深さがあるんです。
ここの違いは、人生においてやっぱり大きかった。
家業に戻って業務改革や組織変革をやらなきゃいけないとなったときにも、そこでの経験が生きました。
02 戻るつもりはなかったんです
横浜で、ワークライフバランスが取れていた
ずっと横浜にいて、ワークライフバランスは取れていたんです。 夜間の仕事も多かったけど、朝はサーフィンをして帰ってきて。 週末も楽しく過ごしていました。
私も、戻るつもりはなかったんです。
その少し前に、一級土木施工管理技士の試験に受かっていました。 それを両親に伝えたら、資格も取れて経験も積んでるから、戻ってきてほしいと。 裏側では、会社がゴタゴタしていたらしいんです。人の立て直しとか、いろいろな問題がありました。
断る理由もなかったんですよね。 ずっと遺伝子に入っていた事業承継というスイッチが、パチッと入りました。 じゃあ戻るよ、という感じでした。
三十の時は、うちの会社をよくする程度だった
戻ってすぐは、まだ全体像を把握していませんでした。 今は、地方で働きがいがある会社を増やすことを自己ミッションにしています。 でも、三十で入った当時は、自分の役割はうちの会社をよくする程度だったんです。
横浜での暮らしから家業に戻ったのは、一級土木に合格したことを両親に伝えたのがきっかけだったと、社長は話した。
03 働きがいがある会社はないんだよね
友人の一言が衝撃でした
志が湧いてきたきっかけは、友人の言葉でした。 エンジンの設計などをやっていた、優秀な友人です。 地元の同窓会で会ったときに、俺、長男だから戻らなきゃいけないんだ、と話していました。
彼の言葉が印象的だったんです。 働く場所はある。年収が下がっても、働く場所はある。 でも、働きがいがある会社はないんだよね、と。
自分は戻ってきて、自分なりにはやっていたつもりでした。 でも、社員の人たちに働きがいがあるかというところまで、意識がなかった。
それが、衝撃でした。
「でも働きがいがある会社はないんだよねって言われて」
会社のリブランディングをしなきゃいけない
そこで、変えなきゃいけない、会社のリブランディングをしなきゃいけないと思ったんです。 業務改革の中で、ビジョン的なものを作る。環境経営をやる。 今でいうSDGsのようなところと、DXのようなところと両輪で走り出しました。三十二、三ぐらいの時ですかね。
同じ頃、地元で首長が変わって、町が変わっていくのを目の当たりにしました。 建物が建つとか、インフラで街が変わるとか、そういうことじゃないんです。街をより良くするための政策を矢継ぎ早に打ち出して、結果を出していく、そうすると地域の人たちの顔色が変わっていく。 首長が変わると、変わるんだ。組織も、代表の在り方によって変わるんだと思いました。
動かないと、取れない
公共工事中心の建設会社だと、何もしなくても何千万、何億の仕事が来ます。 私たちは、ゼネコンの工事などを、営業をかけて取りに行かなきゃいけない。
だから、組織の体格が違うんですね。 私たちは、動かないと取れない。
04 一番生産性があるやり方にシフトする
御社に合わせます、では何も変わらない
DXという言葉がない時代から、ITツールは入れていました。 でも当時のシステム会社は、御社に合わせます、という感じだったんです。 今のレポートラインや決裁の流れに合わせます、と。それだと何も変わらない組織になる。
だから、海外で今一番使われているようなものに合わせました。 一番生産性があるやり方に、自分たちがシフトしなきゃいけない。 DXでガバッと変える。どの順番でどうやるか、組織の変革の仕組みを作りました。
CO2を出す仕事の、対極にある森づくり
建設業は、環境負荷がものすごく大きいんですね。 CO2も出すし、セメントを使うことも負荷が大きい。 だから、リブランディングで森づくりをやることにしました。
社員さんに、やりがいとまでは言わないけど、世の中に対して少しいいことをやっていこうと。 そういう活動を、業務の中に入れたかったんです。 いろいろなアワードにエントリーして賞をいただく。地域の方と一緒に活動する。 そうすることで、承認欲求を満たしていきたいと思いました。
学ぶ環境自体が変わってきている
メディアの事業もやっています。 私が一級土木を取ろうとしたときは、本でしか学べなかった。先輩から直接聞くくらいしかなかったんです。 でも、学ぶ環境自体が変わってきています。
動画を見てテストに合格すると、証明が発行されます。 国の機関に登録すると、公共工事の加点のポイントになる。そこが入り口です。 スキルアップの次に、キャリアアップですから。 中間管理職の人が学ぶ人事系のものや、大学の先生のアカデミックな話など、コンテンツを増やしていこうと思っています。佐賀大学とも連携しています。
友人の一言をきっかけに、DXや森づくりでリブランディングを進めたと聞いた。
05 彼らのフィールドに行くと、よく話してくれる
現場に、面談しに行くんです
今はグループで約六十名です。 なるべく、個人の面談は必ずしています。賞与の面談のときには、お手紙も書いています。 一対一で面談した内容で、よかったなという振り返りのポイントとか。二人しか知らない話の方がいいんです。
もう一つ言うと、現場から帰ってきてから面談すると、待つ人が出ますよね。 三、四人いたら一時間近く待つ。それは可哀想なので、私が現場に行くんです。 キャンプの椅子と机を置いて、お茶を出して、どうなん、みたいな。 彼らのフィールドに行くと、よく話してくれるんですよね。
最近思ったのが、DXのデジタルの行き着く先って、めちゃくちゃアナログなんじゃないかということです。 アナログ的な対応を最大化させるために、DXがあるのかなと。
採用は、やっぱり大変です
採用は、とはいえやっぱり大変ですよ。 大手の求人サイトはやめました。友人からの紹介、リファラルをしっかりやってもらいたい。 それから、徹底的に学校です。大学はなかなか難しいけど、専門の学校には私も足を運びます。
新卒か中途かは問いません。その方に会って、ポジションをどう再構築していくかを考えます。 応募はそこそこあるけど、私たちの情報が届いていないのかもしれない。 私が直接こうして露出することで、会社の透明性が出ると思っています。 仕事の設計図はしっかり決まっていて、プロセスは比較的できるようになるんです。だから、志があれば、やりたいと思う方に来てほしいですね。
06 いきなり大きく上げないことですね
人生って、いつでも変えれる
学生からすると、新卒の一社目ってすごく重要じゃないですか。 でも、長く経験していく中で、小さなつまずきもあれば、良かったこともある。 それでも、人生っていつでも変えれる。
大学受験も就活も、必ず満足いく結果になるわけじゃないです。 悪ければ悪いなりの経験の積み方がある。良ければ、もっと頑張ればいい。 努力の方向性と行動だけ、変えてもらえればいいかな。
小さな志を積み重ねていく
自分は四十ぐらいで、大学院に一回入って学び直したんです。 最後に大きかったのは、志の立て方でした。 一番上に大きいことをバンと置くと、自分とのギャップに気づいて上がれなくなっちゃう。
この会社に入ったらこれをやってみる。このプロジェクトでこれをやってみる。 小さな志を、どんどん積み重ねていく。 いきなり大きく上げないことですね。
知識や情報が大きくなりすぎて、それが足かせになって動けなくなることもある。 今、大きな志が描けていなくてもいいんです。 自分なりの小さな志を積んでいくと、大きなものが見えてくるときがあるんで。
取材では、家業に戻った経緯、友人の一言で湧いた志、現場での面談、学生への言葉について話を聞きました。
取材: 島田大輝/ローカル文庫編集部
