僕らがスマイルパートナーについて知っていたのは、千葉で電気設備工事をしている会社だということくらいだった。社長の伊藤さんが高卒でこの世界に入ったこと、現場にはいっさい出ず、電気工事士を支える仕組みそのものを作ろうとしていること。そのどちらも、取材の前には何も知らなかった。
01 スーツを着る仕事が、したかった
僕は高卒なんです。大学進学も一瞬迷ったんですけど、とにかく早く社会に出たかった。
家庭環境がちょっと複雑でね。早くそこから抜け出したい、という気持ちがありました。だから高校を出てすぐ、仕事も一人暮らしも始めたんです。
地元の千葉は、結構やんちゃな子が多くてね。ニッカポッカの作業着を、かっこいいと思って履く人もいた。でも僕は、どちらかというと、それをかっこいいと思えなかったんですよ。
正直に言うと、ブルーカラーに対して、すごく敬遠する気持ちがあった。なんとかしてスーツを着る仕事がしたくて、しかも対話を覚えたかったので、営業の道に進んだんです。
ゴリゴリの体育会系の営業職でした。家のリフォームとか、屋根、塗装、エアコン、電気工事、通信。家の生活に関わること、社会インフラに関わることを扱っていた。一年半から二年で、営業のノウハウをすべて学ばせてもらいました。二十歳のころで、月に四十万ほどいただいて、意外と余裕のある生活ができていたんです。
02 手に職を持つ人が、かっこよく見えた
ただ、人生百年と言われる中で、これをこの先ずっとやっていくのか、と。二十歳そこそこで、ちょっと自己嫌悪に陥ったんですよね。
そのとき、現場に出入りしているリフォームの業者さんが、かっこよく見えたんです。手に職を持っているって、すごいな、と。
とはいえ、泥まみれになるのはすごく嫌だったので、比較的きれいで、頭を使う仕事を選んだ。空調や電気工事です。アンペアの計算とか、めちゃくちゃ理系なんですよ。
それで、家の近くの電気工事の会社に電話して、見習いで入れてもらった。営業は辞めて、ド素人、未経験で空調の業界に飛び込んだんです。
これが、やっていけなかった。本当に辛かったんですよ。
今の令和みたいな時代じゃないので、めちゃくちゃ怒鳴られる。しかも給料が鬼のように安くて、見習いの日当が七千円ですよ。朝六時に起きて、帰ってくるのが二十一時。ちょうどアナログテレビが地デジに変わるころで、アンテナの入れ替えが超多くて、本当に死んでました。
営業のときは二十歳で月四十万もらえていたのに、見習いの日当が七千円。このままじゃダメだ、と思ったんです。
03 現場には、一切出ない
一年半ほどで、独立しようと決めました。独学で第二種電気工事士の資格を取って、二十二くらいで個人事業主になった。大手の下請け仕事を、ネットで検索して受注していったんです。
そうしたら、下請けとはいえ受注がすごく増えた。なぜかというと、高校を出たあとの営業の経験が、めちゃくちゃアドバンテージになったんですよ。
ほかの業者さんは、営業をしてこない。だから、伊藤さんにお願いしたい、とめちゃくちゃ仕事が来る。対話、対人のコミュニケーションが、ここで生きてきたんです。
個人事業主では収まらない売上になってきたので、株式会社スマイルパートナーという法人を立ち上げました。名前は、リフォームや住まいに関わる仕事だったので、住まいのパートナーになれるように、という意味です。笑顔のスマイルも、掛け合わせてあります。
法人になってからは、二十三くらいで、現場にいっさい出なくなりました。
多くの会社は、社長が現場に出て、事務もやって、営業もやる。でも、そんなことができるわけがないし、集中が分散する。だから、多少利益が減っても、現場は社員や協力業者に任せて、僕は経営に専念したんです。
見習いのころ、二回りくらい上の一人親方の下についたことが大きかった。一人親方も、やっぱり経営者なんですよね。別に誰かに教わったわけじゃないけれど、僕は選択と集中だな、とそのとき思ったんです。
04 仕事を、お金で選ばない
今は、電気工事士のためのアプリを作ったり、協力業者の採用を代行したり、営業の全工程を自動化するサービスを作ったりしています。僕はめちゃくちゃ面倒くさがり屋なので、すべてを効率化しちゃうんですよ。
うちは電気工事の会社というより、電気工事士を支える会社なんです。
ビジョンも、少し変わってきました。以前は、エアコン工事で日本一になりたい、という思いがすごく強かった。でも今は、業界のナンバーワンを目指すんじゃなくて、この仕組みがないと業界が回らないよね、というリード企業になりたい。目線が、ガラッと変わったんです。
仕事をするときに大事にしているのは、お金で決めない、ということです。本当に人と人との繋がりで選ぶ。感謝の気持ちを忘れずに、そこはしっかりやらせてもらっています。
05 できない理由より、できる理由を先に探す
採用は、新卒でも中途でもいいんです。うちは教育が結構しっかりしていて、研修には確実に行かせる。
その研修で、僕自身が変わりました。できない理由を探す人って、結構多いじゃないですか。でも、研修を受けると、できる理由を先に探すようになる。これだったらできる、と。マインドセットが変わるんですよ。だからうちは営業が強い。
ただ、正直に言うと、採用しても離脱する人が多いのが悩みです。
去年は、入ってくれた人に、家も借りてあげて、洗濯機も冷蔵庫もエアコンも揃えてあげた。そうしたら、退職代行で辞めてしまった。そういうことが、三人くらいありましたね。
もちろん、うちに原因がある部分も正直あるんです。退職代行で辞められるのは、いいイメージを持てない。でも同時に、僕の動機づけも低かったな、と。自分に向けて、反省するところは反省しています。
今の一番の課題は、ナンバーツーの教育ですね。僕は都内に住んでいて、毎日百キロくらい往復して千葉の事務所に来ている。リモートでもよかったんですけど、やっぱり同じ空間で仕事をして、同じ考え方や生活水準に近づけていく。それが大事だと思っているんです。
06 失敗を、買ったほうがいい
学生さんに言うのであれば、まず、思い立ったらすぐ行動すること。
そして、若いうちは、本当に失敗を買ったほうがいいと思っています。
僕は、人の何十倍も失敗してきているんですよ。投資の失敗、事業展開の失敗。自己破産こそしていないけれど、何千万も突っ込んだものがダメになったことは、何度もある。でも、そういう経験をたくさんしてきたからこそ、どうしたらうまくいって、どうしたらうまくいかなくなるか、概ね分かってきた。
それを、二十四、五のころに経験したんです。今は四十五ですけど、二十四くらいなら、失敗しても組み立てを何度でも再開できるじゃないですか。
だから最後に言いたいのは、経験を買ったほうがいい、ということです。ハイブランドや高級車を買うんじゃなくて、一食十万するようなところに行ってみるとか、ものすごい経験にお金をかける。そうやって、自分の価値観や、ものを見る角度を変えていったほうがいいんじゃないかな、と僕は思いますね。
事業も同じで、点で仕事をするんじゃなくて、仕組みを作って、周りから固めていく。そのほうが、絶対にいいんですよ。
取材: 島田大輝(ローカル文庫)
