今回お話を聞いたのは、京都で株式会社杉本工務店を営む代表の杉本慎治さん。取材はオンラインで行いました。家業を継いだ経緯、下請けから元請けへ変えた時期、古いマンションのリノベーション、そして職人さんの成り手について聞きました。
「ホワイトワーカーだけでは何ともならないんですよ、これ本当に。」
01 僕は立ち上げたというか、二代目なんですよ
ベースは父が起業した会社です
僕は会社を立ち上げたわけではありません。 二代目なんですよ。 父が起業した会社を、僕が継ぎました。
僕は高校、大学、社会人と、ずっとラグビーをやっていました。 今はもう、三十何年前に引退したただのおっさんです。 ラグビーをやめたのと同時に、家を継いだんです。
弟はサラリーマンで行きたいと言った
最初から継ぐつもりだったかというと、そうでもありません。 僕は二人兄弟の長男です。 自分は、そのまま社会人で行けるかなと思っていました。
でも、弟の方がサラリーマンで行きたいということだったんですよね。 それなら長男が継ごうか、という話になりました。 そうやって、今の形になったんです。
杉本さんは、高校から社会人までラグビーを続け、引退と同時に家業を継いだと話した。
02 仕事を取ろうと思うと、利益が取れなくなる
一番しんどかった時期
サラリーマンなら、最低限の給料は保証されています。 でも商売は、うまくいかなければ資金繰りが悪くなる。 倒産ということにも、直面します。
景気が悪くなると、建築業界の業績も悪くなります。 会社の存続が危うい状態が、何年も続きました。 その時が、一番しんどかったですね。
相見積もりで、安いところが採用される
父の後を継いだ頃は、大きな建築会社の工事の一部を下請けでやっていました。 一つの建物には、電気屋さんや水道屋さんなど、いろんな業者が関わります。 仕事を取ろうとすると、同業の三社から見積もりを取る。 いわゆる相見積もりで、安いところが採用されるんです。
すると、どうなるか。 仕事を取ろうと思うと、利益が取れなくなる。 景気が悪くなると物件の数も減って、取り合いになります。 取ろうと思えば利益を下げる。 それが積み重なって、悪くなったんです。
だから、自社で直接取った方がいいんじゃないか。 リスクはあるけれど、そういう話になりました。
助けてくれたのはラグビー仲間でした
営業に回ったとき、助けてくれたのがラグビー仲間でした。 大きな会社に残っている者もいるし、自分で商売をやっている者もいる。 ラッキーパンチなんかもありました。
ちょうど十年前ぐらい、みんな五十を過ぎたころで、いろんなところで決裁権を持てる年齢になっていたんです。 三十代や四十代だったら、知り合いでも「上司にお伺いを立てる」となったと思います。 知り合いの仕事をやるのは、それなりに緊張感もあります。 でも、本当にそれに救われました。
運はあるんですよね。 ただ、会社がやばい、お金がないと思っても、外に出ないとダメだと思います。 そこで動かないと、どんどん悪くなっていく。 それは確かです。
下請けをやめて直接仕事を取りに回ったとき、助けてくれたのはラグビー仲間だったと、社長は話した。
03 自分がやりたい生活を叶える
思い切った投資はしたかな
少しずつ、下請けから元請けへ、直接のお客さんが増えてきました。 そのころ、あるリノベーション会社のフランチャイズから声がかかったんです。 四年ほど前、京都のエリアパートナーとして契約しました。
エリアパートナーになる条件は、ショールームを持つこと。 それと、専用の営業マンと設計者を雇い入れることです。 ちょっと思い切った投資はしたかな、と思います。
建築で、SNSから集客ができるのか。 そこは不安材料でした。 でもやり始めると、月に何件か来ます。 契約に至る可能性が高い仕組みだと思っています。
築古マンションを、自分らの間取りで
新築マンションは、今すごく高額になっています。 普通の人では、ちょっと買えないような金額です。 そこで、二十五年以上の築古マンションを、自分の思う間取りやデザインでリノベーションしませんか、と提案しています。 新築を買うより、安くなります。
出来合いの新築なら、間取りも床も壁も照明も、全部決まったものに住むことになります。 自分の自由が叶えられる。 そこが魅力ですね。
中は全部壊して、スケルトンにします。 お風呂、キッチン、トイレ、洗面の水回りも全部新しくする。 床をカーペットにするのか、フローリングにするのか。 そういうのは全部自分たちで選べて、それにうちの設計者が相談に乗るんです。
うちのショールームも、築五十年のマンションをやっています。 古いとオートロックがないところもあります。 自分の自由を取るのか、新築の綺麗さを取るのか。 どっちを取るか、ですね。
うちに来るのは内装にこだわる人が多く、そのための設計士もいると、社長は話した。
04 それぞれがプロフェッショナルを目指そうじゃないか
義理・人情・感謝と、創造的破壊
うちの会社の方針は、義理・人情・感謝です。 感謝とか、そういうのは忘れないようにしていきたいと思っています。
もう一つが、創造的破壊。 うまくいっても、それで満足しない。 会社には決算という成績表があります。 悪いところは改善して、いいところを伸ばしていく。
今年黒字でも、来期は十五パーセントから二十パーセントのベースアップを目指すには何が必要か。 戦力なのか、戦略なのか。 会社も人間も、成長しなかったら衰退していくだけだと思うんですよね。 なかなかうまくいかないですけど、いつも頭の中にあります。
六十二歳になると、二十年後、三十年後というのは難しい。 だから一年一年なんです。
みんなが儲かる仕組みでないと続かない
僕らの仕事は、もらったお金から支払って、残りが利益です。 そんなに大儲けはできないんですよ。 お客さんの予算もあるし、競争もあります。
協力業者に払うお金で、めちゃくちゃなことはしたくない。 みんなが儲かるような仕組みを作らんと、長続きせえへん。 十万円と言ったのに五万円にしてくれと値切られて、利益がなかったら、もうあそことはやめとこう、となるでしょ。
「それぞれがやっぱりちょっとプロフェッショナルを目指そうじゃないかと。」
うちの会社は今、十人です。 経理がいて、営業がいて、設計がいて、現場を管理する者がいる。 営業が頑張っても、経理が頼れないとチームとして成り立たないんですよね。
ラグビーでも、スクラムの一番前で組む大きいやつもいれば、ボールを持って走る足の速いやつもいます。 それぞれが機能しないと、一つのチームにならない。 これは、みんなに言い続けています。
今は法人より個人のお客さんの方がウェイトが大きくなっていると、社長は話した。
「一番多いお客さんが、単身女性、これがもう圧倒的に多い。」
05 職人さんの成り手がない
一番、懸念していること
それが、我々が一番懸念していることです。 建築の職人さんの技術には、すごいものがあります。 でも、うちの工務店に来ている職人さんも、三十代、四十代は少ない。 五十代、六十代、七十代ぐらいの職人さんが、現場で作業しているんです。
息子が去年、就職活動をしていました。 東京に面接に行くのに、交通費まで出してくれる。 それぐらいの売り手市場です。 でも、ブルーワーカーになる人は、全然少ない。
災害のとき、直すのは職人さんです
今は災害も多いです。 自衛隊も含めて復旧作業をしていますが、重機に乗っているオペレーターや、すぐに電気や水道を使えるようにしているのは、いわゆる職人さんです。 そこがいなくなるのは、大きな問題だと思っています。
これから老朽化も進みます。 いくら設計をしても、その通りに建てることができない。 災害が起きても、修理することができない。 そういうことが、近い将来起きてくるんじゃないかと思っています。
頭の中では、僕らも分かっているんです。 大学を出た子が大工になるのか。 修行期間もあるし、夏は暑い外で、冬は寒いところでやる。 日当一万円とかでやるのがどうなのか、というところですよね。
だから、サラリーも上げなあかんと思います。 うちでトライアルやインターンシップをやってみようか、というのもありです。 若い人が声を上げて、成り手を作っていってくれたらと思います。
取材では、家業を継いだ経緯、下請けから元請けへの転換、古いマンションのリノベーション、職人の成り手の話を聞きました。
取材: 島田大輝/ローカル文庫編集部
いちばん驚いたのは、お客さんでいちばん多いのが単身の女性だという話でした。家は結婚してから買うものだと、僕はなんとなく思っていました。杉本さんは「女性の方が、将来のいろんなことを考えてる」と話していて、自分の思い込みに気づきました。
もう一つ心に残ったのは、ラグビーのチームの話です。大きい人も足の速い人もいて、それぞれが機能しないとチームにならない。十人の会社で「それぞれがプロフェッショナルを目指そう」と言い続けていると聞いて、会社を一つのチームとして見ている人なんだと感じました。
僕はもともと大工になりたかったので、職人の成り手が少ないという話は他人事ではありませんでした。ただ、杉本さん自身が「日当一万円とかでやるのがどうなんか」と言っていたことには、僕もまだ答えを持てていません。現場の仕事をどうすれば若い人に届けられるのか、これから考えていきたいです。
