代表 杉山 敏彦

「振る球は自分で決めろ」三重の測量設計会社が若者に託す社会の土台

代表杉山 敏彦

公開 取材・文 ローカル文庫 編集部

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代表 杉山 敏彦
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ローカル文庫 編集部

三重から関東の大学へ。土木ひとすじの歩み

三重県の杉山コンサルタンツ株式会社は、道路や橋などの公共事業に欠かせない測量や設計を手がける会社だ。代表の杉山敏彦氏は60歳。今年から三重県測量設計業協会の会長も務めている。

杉山氏は三重県の工業高校で土木を学び、東海大学へと進んだ。進路を決めたのは昭和55〜56年頃。当時の三重では、進学するなら名古屋や大阪へ向かうのが一般的で、関東の大学に進む人は多くなかったという。

今は状況が大きく変わった。建設業界が長く厳しい時期を過ごすなかで、工業高校の土木科は縮小が進み、普通科から大学へ進学するのが当たり前になった。都会の大学に進めば、都会には求人も情報もあふれている。

「やっぱり都会の方が楽しい。そういう情報が溢れ返っているもんですから、そこから離れたくなくなっていく現象が自動的に起きる。その気持ちはよくわかるんです。そうすると、三重に帰ってこない」

若い世代が地元を離れていく現実を、杉山氏は責めるのではなく、理解したうえで向き合おうとしている。

建設業界が耐えてきた長い冬

杉山氏によれば、国の公共投資は平成4年頃をピークに減り続け、一時はピークの半分ほどにまで落ち込んだ。建設業界は長い間、厳しい状況に置かれた。

転機になったのは東日本大震災だった。町並みが大きく壊れる事態が現実に起きたとき、建設業界はすでに疲弊していたという。復興に向けて公共投資が増え始め、その後も徐々に回復。今ではピークに近い水準まで戻りつつある。

ところが、仕事が戻ってきても、担い手は戻ってこなかった。

「いつの間にか、僕らが就職した時の会社数の半分です、今、県内は。それぐらい地方の建設っていうのは、人も来てもなければ、会社もやっぱり大きくなっていけないんです」

厳しい時期が長く続いたことで、若い人を雇う余裕のない会社が多かった。給料が上がらず、若手が辞めていく。大学や高校、高専の先生たちも、教え子を建設業界に送り出すことをためらうようになった。今、ようやく地元の会社も給料を上げられるようになり、土木を学んだ高校生が土木の業界に進むケースが少しずつ増えてきたことを、杉山氏は喜ばしく思っている。

一方で、世代間のギャップもある。杉山氏たちの世代は、厳しく叱られながら仕事を覚えてきた。だからこそ、若い人に早くできるようになってほしいと熱が入るほど、言葉が強くなってしまうこともある。若手がどうすれば辞めずに育っていけるのか、中間管理職は頭を悩ませている、と杉山氏は率直に語る。

測量設計は、ものづくりの「上流」にある仕事

建設業の仕事は、ブルドーザーやショベルカーが動き、ダンプが土砂を運ぶ様子を見れば、何をしているかがおおよそわかる。しかし測量設計の仕事は、外からは見えにくい。

「ものを作るための設計図を作り、その設計図を作るために現場を測らないといけない。それが測量です。それがないと、作るものの数量が出ないから、工事費が出ないんですよね」

工事費が出なければ、公共事業の予算も明確にならない。測量設計は、ものづくりの「上流」に位置する仕事なのだ。

杉山氏は鉄道を例に挙げる。レールのカーブは、なんとなく曲がっているわけではない。車両がどれだけの速度で走るかを想定し、緻密な計算と測量に基づいて設計されている。けれど、鉄道や道路に設計があること自体を知らない人も少なくないという。

さらに今は、新しい道路をどんどん造る時代ではない。これまで造ってきた橋や道路、照明や標識を、壊れてしまう前に直して長く使う「維持管理」の時代だ。技術も大きく変わった。かつては三角定規で図面を引き、3人がかりでテープを引っ張って測量していた。今では機械が自動で測量し、パソコンで編集すれば図面になる。三次元の図面づくりも進んでいる。

「若い人たちは、もっとこうすれば簡単にできるんですよね、っていうことを、淡々とやっぱりやるんですよね」

DXの推進やAIの活用は、業界にとってこれからの課題だ。杉山氏も、何とかしてついていこうとしている。コロナ禍をきっかけにウェブでの打ち合わせが当たり前になったように、変化は確実に進んでいる。

高校の教室で伝える、土木の仕事の面白さ

杉山氏は3年ほど前から、県の公共事業を担う部署と連携し、高校での出前授業に取り組んでいる。自ら教壇に立ち、1回2〜3時間の授業を行う。

授業を重ねるなかで、杉山氏は一つの課題に気づいた。学校で学ぶことと、実社会で求められていることが、かけ離れているのだ。学校では計算の方法や成り立ちを学ぶが、実際の仕事では計算の多くをパソコンのプログラムが担う。橋や舗装の計算方法、コンクリートの配合を学ぶ内容は、杉山氏の時代とほとんど変わっていない。一方で、今の仕事の中心である維持管理を学ぶ機会は少ないという。

「実社会って何してんのかっていうことが、学校の先生は分かっていても、多分、生徒に教えてないと思いますよ」

庭に植木がなければ、植木屋という仕事を知らないまま育つ子どももいる。道路で作業している人たちが何をしているのか、子どもの頃から教わる機会がない。ただ、最新の測量機器を見せると、生徒たちは「なんでこんなことができるんだ」と強い興味を示すという。

今年6月には、ある工業高校で業界の職業説明会を開いた。地元の3社と一緒に訪れ、県の若手職員にも声をかけて参加してもらった。高校生の就職面接が始まる直前の時期で、生徒たちは給料や仕事の中身について熱心に質問し、2時間では収まらないほど話が盛り上がったという。

「ギリギリなんだけど、真剣にこの子ら考えとるんや、っていうのは、手に取るようにわかりましたね」

一緒に連れて行った会社には、その学校の卒業生が勤めていた。久しぶりに教え子と再会した先生は、卒業生が自信を持って仕事のことを話す姿に「これからの励みになる」と、誰よりも喜んでくれたという。

杉山氏は今、自分の会社のためというより、業界全体のために動いている。

「何かの縁あって土木に来たんだから、お願いだから、土木だったらどこでもいいから就職してくれるか、っていうのが、僕の今、伝えていることでね」

人を大切にするということ

杉山コンサルタンツは、社員数を絞って運営している。有料の求人媒体は費用が年々高くなっていることもあり、利用していない。測量設計は専門性の高い仕事で、40歳を過ぎてから未経験で始めるのは難しい面もあるという。

人材の獲得をめぐっては、杉山氏には譲れない考えがある。他社がお金をかけて育ててきた人材を、条件を示して引き抜くようなやり方は好きではないという。

「やるとやり返されるんです。世の中ってそういうもんです。いいことがあったら悪いことが起きてくるし、ちょうどプラスマイナスゼロっていうのが人生なんで。だから、あんまりお金でこうやるっていうのが好きじゃないんですよね」

建設の業界は裾野が広い。重機のオペレーターもいれば、図面を描く人、コンクリートや鉄鋼に関わる人もいる。いくらAIが進化しても、最終的には人間の判断が必要な仕事だ。だからこそ、理系の学校で土木を学ぶ人を減らさないでほしい、と杉山氏は願っている。

「案外大事なことをやっている業界ではあるもんですから。三重県だけに限らず、都道府県ごとに、そういうのに興味を持ってもらえる学生さんが一人でも増えることは願ってますけどね」

学生・若者へ、振る球は自分で決めろ

最後に、学生へのアドバイスを求めると、杉山氏は「職業観」について語り始めた。

杉山氏の世代は、「大きくなったら何になりたいか」を思い描き、こういう仕事がしたいという思いで学校を選ぶ人が多かった。今は模擬試験の点数を目安に、なんとなく進学先を決める人が多いように感じるという。大学は4年間だが、社会に出てからは40年働く。大学は人生の中のほんの一部にすぎない。

杉山氏には、二人の息子がいる。下の息子は将来の夢が決まっていなかったが、ある日、担任の先生に思わず「体育の先生になりたい」と口にした。すると担任は体育の先生で、大喜びで進学先の候補を次々と示してくれた。息子はその学校に進み、卒業して今は就職しているという。

「嘘でもいいから、こんなことやりたいって言えば、先生は動いてくれる。自分から言わないから、ほったらかされる。嘘から出たまことってあるし、パッと口にしたことが、自分に向いてくる可能性だってゼロじゃないんだよ」

そして杉山氏は、野球のバッターを例に挙げた。打席に立つバッターに、次にカーブが来ると教えてくれる人はいない。ピッチャーの投げた球を自分の目で見て、タイミングを測り、振るかどうかを自分で決める。

「スポーツやってるときの自分って、親のアドバイス受けてないぜ。悩むのは何もあかんとは思わん。だけど、その間に三振するぜ」

実社会は甘くないとよく言われる。けれど、甘いか甘くないかを感じるのは自分自身だ。

「この先は、どっちみち若いやつらの時代になるんで。自分の思い切ってやる時間を長く持ってほしいよね」

見えにくいところで社会の土台を支えてきた人の言葉は、自分の道を自分で選ぼうとする若者の背中を、力強く押してくれる。

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