横浜・みなとみらいに根を張る、地元密着の運送会社
ツカサ運送株式会社は、横浜市西区に拠点を構える運送会社だ。みなとみらいと同じ西区に会社を置き、神奈川県内を中心に幅広く物流を担っている。社員は22名。ここに委託ドライバーやパートナー会社が加わり、地域の物流を支える。
代表取締役の齋藤大亮さんは、全国展開を志向していない。目指しているのは、あくまで「地元なら誰でも知っているような運送屋」だ。みなとみらいという土地のブランドを活かしながら、神奈川県内で着実に仕事を積み重ねていく。それがこの会社の姿勢である。
「地方に拠点を出したいとは、正直思わないですね」。齋藤さんはそう言い切る。地方まで足を延ばせば距離を走ることになり、効率が落ちる。燃料費が高騰するいま、その負担は小さくない。横浜という災害の少ない土地で、まずは足場を固める。そこに齋藤さんの経営判断がある。
18歳でトラックに乗り、流れのなかで独立へ
齋藤さんが運送の世界に入ったのは18歳のとき。以来、途中で他の仕事に携わった時期もあったが、やはり運送屋に戻ってきた。「本当に運送屋しか知らない」と笑う。32歳で独立し、来年で創業15年を迎える。運送一筋、およそ30年のキャリアだ。
独立のきっかけを尋ねると、齋藤さんの答えは意外なほど飾り気がない。「正直言って、ないんですよ、それが」。かつては会社を経営するには資金力のある人でなければ難しいという空気もあったが、時代は変わった。お客さんとのつながり、その流れのなかで自然と独立に至ったのだという。
とはいえ、独立への素地は若い頃からあったのかもしれない。「チームで動くとか、上から指示されるというのが元々嫌いなタイプ」。学生時代から、先輩から指図されることが好きではなかった。その性分が大人になっても続いている、と齋藤さんは振り返る。会社を興したいという思いも、20代前半には確かにあったという。
もっとも、流れで独立できるほど経営は甘くない。「やってみて、思っていた絵と違うということはありますよね」。理想と現実のあいだで、経営者としての戦い方を学んできた。
経営を悩ませるのは、いつも「人」
これまでで一番苦労したことは何か。齋藤さんの答えは明快だった。売上でも利益でもない。「やっぱり人ですよね。人に悩まされます」。
その根底には、ひとつの確信がある。「人さえいれば、売上も上がるし利益も得られる」。だからこそ、人が育たない、育っても入ってこない、ようやく落ち着いたと思えば誰かが辞める──そうした悩みが年中絶えない。仕事の依頼をいただくこと自体は難しくない。大手の物流会社も人手に困り、外注に頼る場面が多いからだ。「声をかければすぐ入れるところも大半あります。あとは、人がいないから営業しないだけです」。
運送業ならではの構造的な難しさもある。朝暗いうちから夜暗くなるまで働く長い拘束時間、そして残業。いわゆる「2024年問題」は、この業界を直撃した。「残業で稼いでいく形なので、残業ができないと給料が下がってしまう」。ならば会社が給料を上げるしかなく、その原資を確保するにはお客さんと運賃を交渉するしかない。「悪循環な動きになってくるじゃないですか」。物流を取り巻く環境は、この一、二年でめまぐるしく動いている。
紹介が7割──働く人を大切にする採用のかたち
採用は運送会社にとって最大の課題だ。ハローワークへの掲載に加え、有料の求人サイトにも費用を投じる。だがその額は年度によっては三桁、100万円、200万円という規模に達することもある。「それで何人採用できたのかと言えば、本当に一人か二人のレベル」。求人費の重さを、齋藤さんは率直に語る。
そんななかで、いま同社の採用の柱になっているのは「紹介」だ。「社員は22ですけど、7割8割は紹介ですね」。今いる従業員からの紹介、パートナー会社が倒産した際に受け入れたドライバーなど、もともと顔の見える人が入ってくる。
ここには、齋藤さんなりの合理性がある。見知らぬ求人会社に月数万円を払うくらいなら、紹介してくれた従業員に10万、15万と気持ちよく渡したほうがいい。「そのほうがモチベーションも上がるじゃないですか」。人にかけたお金が、そのまま社内の人に還っていく仕組みだ。
紹介が回るのは、社員が自分の会社を「いい会社だ」と思っているからにほかならない。仕事の質を大切にし、指導を欠かさない。辞めてほしくないという思いから、今の時代に合わせて接し方も変えてきた。今年始めたばかりだという社内の親睦の場にも、9割ほどの社員が参加するという。
運送は、AIの時代でもなくならない
時代の変化に、齋藤さんは敏感だ。事故防止のために導入したドライブレコーダーも、いまやAIを活用したものになっている。SDカードを抜いて確認する従来型と違い、事故や危うい運転の報告を受ければ、その前後の映像を会社のパソコンから即座に引き出せる。信号無視や運転中の携帯電話の使用まで検知される。「一日、二日のタイムラグが発生しないのはいいなと思いますね」。事故は保険料に直結し、会社の全車両に影響が及ぶ。だからこそ、こうした技術の価値は大きい。
一方で、齋藤さんは運送という仕事の本質に揺るぎない自信を持っている。「AIが進んでいる現代でも、運送と建築は絶対なくならないと思うんですよ」。ドローンや自動化の話は出ても、物流のすべてが置き換わるわけではない。むしろ、事務職やホワイトカラーの仕事がAIに代替されていく時代だからこそ、体を動かし社会を支える仕事の価値は際立つ。
齋藤さんは、都会にいることの利点も冷静に捉えている。AIをはじめとする最先端の技術も、助成金などの制度も、まず東京・神奈川といった都市部から広がり、地方へと流れていく。「最先端にいるのは、やっぱりこの辺の都会なのかな」。時代の変化についていけなければ、現状維持すらできない。その緊張感を持ちながら、必要な技術を一つずつ取り入れている。
攻めから守りへ。次の15年を見据えて
今後のビジョンを尋ねると、齋藤さんは「すごく難しいですけど」と前置きしたうえで、経営の方向転換について語ってくれた。これまでは、お客さんから声が上がるたびに人を見つけ、車を買って入れる──そうやって右肩上がりに事業を伸ばしてきた。売上も順調に伸びてきた。
だが、これからは違う。「ちょっと守りに入って、もう少し内側を強めていきたいなと」。管理者は固まっている。だが、その下が育たなければ会社は崩れてしまう。リーダー格がいて、一般従業員がいて、はじめて組織は成り立つ。「私一人ではどうにもこうにもいかない」。だからこそ、ここ一、二年で人を落ち着かせたい。それが率直な思いだ。
「攻めは簡単でも、やっぱり守りのほうが難しい。サッカーで言えば、守りがいなければ点数を取られてしまいますから」
サッカーをやっていた齋藤さんは、攻めで点を取りたい派だったという。その性格が経営にも表れてきた。だからこそ、これからは意識してディフェンダーに回る。内部を固め、地元に根を張った運送会社として次の一歩を踏み出す。来年迎える創業15周年は、その転換点になるのかもしれない。若い力を求める齋藤さんの視線は、地元の未来へと向いている。
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