今回お話を聞いたのは、三重県伊賀市の山森電機設備株式会社の代表、山森悟さん。取材では、家業を継いだ経緯、お客さんとの向き合い方、電気工事業界の人手不足、面接で話していること、これからの会社の大きさについて聞きました。
「だから信用されるかどうかっていうのはそこにかかってくるんです。」
01 サラリーマンでいるのは嫌だなと思っていました
小学校の頃から手伝っていた
うちは祖父が始めて、父が引き継いだ会社です。私は次男なんですね。兄は大学を出て建築家になって、今も大阪で建築の仕事をしています。
昔から父の手伝いをしていたのは、僕の方でした。小学校の頃から一緒に仕事について行っていたので、いずれやるかもしれないとは思っていたんです。大学も電気工学科を選びました。
二十歳ぐらいのときです。会社の規模が伊賀で三番目、四番目ぐらいになっていて、このままなくすのはもったいないと思いました。それで父に「継ぐよ」と話したんです。
決め手を聞かれると、サラリーマンでいるのは嫌だなという気持ちでした。どうせなら自分で事業をしたい。人に使われるより、使う側になりたかったんです。中学のサッカー部で副キャプテンはしていましたけど、何かの経験があって社長を目指したわけではありません。漠然と、サラリーマンや公務員にはなりたくないと思っていました。
僕らの時代は就職氷河期で、仲間はみんな就職に困っていました。公務員になるために浪人する子もいたんです。父が従業員を何人か抱えてやっているのを見ていたので、同じことができるかはわからないけど、継ぎたいと思いました。
設備設計事務所での三年
卒業後は、継ぐ準備として設備設計事務所に就職しました。建物は、建てただけでは何も動きません。電気、空調、換気、水道が通って、建物は息をするというか、生きるんです。電気は建物にとって血液みたいなものです。その配線や照明器具の位置を図面に描く仕事でした。
三年ちょっといて、帰ってきました。
その経験が今、すごく役立っています。自分で設計もするし、図面を見ながら変更をかけることも多い。お客さんのためにいろんな変更ができるところは、うちの強みになっていると思います。
継ぐと決めたのは二十歳ぐらいで、設計事務所での経験が今の仕事に生きていると、社長は話した。
02 お客さんの立場になって考えるのが一番なのかな
自分がお客さんだったら
地域に長く頼られる理由を聞かれても、何が一番なのかはわかりません。ただ、真摯にお客さんのために仕事をしていることなのかなとは思います。
地域のために何かをするというより、お客さんにとって何がベストかを考えて仕事をしています。大きな仕事でも小さな仕事でも、お客さんの立場になって考える。得をするとか儲かるとかだけではないんです。
滋賀の商人の「三方よし」ってあるじゃないですか。自分だけが良ければいいわけではない。だから大きい仕事をしていても、減額されてでもベストな状況に持っていきます。
結局、自分がお客さんだったらと思うんですよね。
保険の勧誘を受けたとき、その人が本当に良いと思って勧めているのか、お金儲けのためなのか、わからないでしょう。自分で経験して良かったものを勧めるならまだいい。でも、会社の売上や自分のノルマのために勧められても、信用できないじゃないですか。
営業に行ったことがない
実は、うちは営業をしないんです。
「僕こっち帰ってきてから特に営業って行ったことないんですよ。」
仕事をくださいと言いに行ったことは一度もありません。仕事をした先で信用を得られたら、また追加の依頼が来る。それで仕事が増えていっています。営業しなくても増えているのは、需要があるということだと思うんです。
地域のためというより、お客さんにとってのベストを考えて仕事をしていると、社長は話した。
03 人が不足していて、受けられないこともあります
仕事はあるのに人がいない
電気工事に携わる若い人は、ものすごく減っています。
案件はあるのに、人が足りなくて受けられない。入札が不調になることも起きています。大きな工事には一年、二年と技術者を専任でつけないといけません。その人はその間、他の仕事ができなくなるんです。
うちも苦しいときがあります。ちょっともう受けないでおこうかな、ということもあります。
前向きな話をしようと決めた
電気工事組合の青年部で、年に一回、中部地区の五県が集まる会があります。以前はディスカッションをしても、困っていることや建築屋さんの悪口など、後ろ向きな話ばかりだったんです。
僕らが役員をしていたとき、そういう話ばかりするのは面白くないよねと。三重県が会を担当する機会に、好きなことをさせてほしいとお願いしました。
みんなで話し合って、電気工事業界の魅力を工業高校生に伝えようということになりました。県内の何か所かで、五分から十分ずつ、高校生の前で電気工事の魅力を見せるんです。パワーポイントを作る人もいれば、実際に技を見せる人もいました。高校生とのディスカッションでは、聞かれたことに前向きに答えようと決めて、みんなでやりました。
今いる人たち
今は二十代が二人、五十代が僕と、サッカー部の同級生です。六十一歳の女性もいます。パートで入ったんですが、現場にも出たいし技術も覚えたいと言って、電気工事士の資格も取りました。今は社員として図面も見積もりも現場管理もしてくれます。
三十代、四十代は少ないんです。独立していく人が多いので。ただ、一人だと住宅の電気工事で精一杯で、技術的な発展はあまりないと思います。今の時代、独立してもそれほどおいしくはないかなと。
案件があっても人が足りずに受けられないことがあると、社長は話した。
04 面接では、嫌なことも言うんです
いいことばかり言わない
僕の面接は、少し変わっています。
電気工事の魅力はもちろん話します。でも、嫌なことも話すんです。いいことばかり言うと、働いたときに「こんなはずじゃなかった」と思われる。だから、こんな嫌なこともある、あんな嫌なこともある、それでも業界としては魅力がある、と伝えています。
電気工事業界は、建設業界の中で地位が低いと思っています。今はそうでもなくなってきましたが、建設屋さんから下に見られることが多いんです。海外では技術者が重宝されて、時間を空けてもらえることもあると思います。日本では、電気工事のために時間を空けてもらえることは、まずありません。
相手に合わせて、急かされることもある。罵声を浴びることもあります。
壁を張りたいと言われて
壁の中に配線をする前に、建築屋さんの都合で早く壁や天井を張りたいと言われることがあります。配線もしていないのに「張っていいか」と。実際に張られてしまったら、電気工事士が一度剥がして配線し、また復旧しないといけません。
ある現場で、この日から入ってくださいと監督さんに言われて行ったら、いきなり「もう壁を張りたいんだけど、どこから張ればいいか」と言われたんです。今日から来いと言われて来たのに、どういうことかと。
その人とはかなり喧嘩しました。張りたいなら好きなところから張っていい、そのかわり叩き割って配線するから後で直しておいてね、と言ったんです。うちは言われた通りに来ていて、遅れているわけではありませんから。
嫌なことも先に話して、辞められないようにしている。そういう感じです。
面接では業界の魅力と一緒に、つらい目に遭うことも話していると、社長は話した。
「営業活動はしなくても仕事がどんどん増えていってる状態っていうのはやっぱり需要があるっていうことだと思うんです。」
05 どっちが正解かわからない
大きくなると目が届かない
昔は、いくらでも大きくなればいいと思っていました。でも、二兎を追う者は一兎をも得ずで。大きくなればなるほど自分の目が届かなくなって、自分の会社じゃなくなってくる感じがするんです。
今の僕は、社長業をもう少ししたいと思いながら、現場にも行きます。管理もするし、図面も描くし、見積もりもする。これ以上大きくなると、社長業に専念しないといけなくなって、技術者ではなくなるんじゃないかと思います。
人が欲しいという話と矛盾していると言われたら、そうかもしれません。
僕が変に技術者だからいけないのかもしれないですね。完全に経営者に徹すると、そうはならない。よその電気屋さんを見ていると、経営に徹しているところの方が大きくなっている気がします。
「どっちが正解かわからない。」
家族で話したこと
長男は今、僕と同じ大学の電気科にいて、一応継ごうかなという気になっています。限定はしないようにしていて、次男と三男には好きなところに行っていいと言っています。継ぐとしても、全然違うジャンルに行っていてもいいと思っています。
長男が学科を選ぶとき、一度、家族全員を集めて話しました。経営者になると休みが少ない。付き合いも多いし、ボランティアや地域のこともある。休みを全部自分のために使えるわけではない。そのかわり、稼げるよ、と。
実際、僕はお金を使う時間があまりありません。ゴルフは月に三、四回行きますが、ほとんどは交流のためで、プライベートは年に二、三回です。帰ってきたときはゴルフをしたことがほとんどなくて、父にとりあえずやれと言われました。自分で三十万円出してクラブをそろえたんです。お金をかけないと、続かないと思ったので。
人にお金をかけている
会社としては、建物も建ててしまったので、今は人にお金をかけています。儲かったら自分だけが儲ければいいのではなく、従業員さんに還元する。シャワールームを作ったり、決算で利益が出たら決算ボーナスを出したりしています。給料もいいと思います。三重県の電気工事士の日当は、平均で二万五千円ぐらいになっているのではないでしょうか。関東に行けば、もっと高いですよ。
だから、若い人にとって、この仕事はかなりいいと思っています。
採用はハローワークとホームページです。サッカー部の後輩で社労士をしている人に相談して、会社の目標などを一年ぐらい話し合いながら、ホームページの文言を考えました。新規のお客さんから「ホームページを見ました」と電話がかかってくることもあります。
この記事を、学生や一般の人が見て、何か魅力を感じてくれたらいいなと思います。
取材では、継いだ経緯、お客さんとの向き合い方、人手不足、面接で話すこと、会社の大きさへの迷いの話を聞きました。
取材: 島田大輝/ローカル文庫編集部
もう一つは、営業に行ったことがないという言葉です。お客さんにとってのベストを考えて、減額されてでもその形に持っていく。その積み重ねで仕事が来ているのだと受け取りました。
人が欲しいのに大きくしすぎたくない、という迷いについては、山森さん自身が「どっちが正解かわからない」と話していました。技術者でいたい気持ちと会社を育てることを、どう両立するのか。私にはまだ答えが出ていませんが、これから考えていきたい問いです。

